第42章 触れると、暖かい
上目遣いに弱いことを知っての確信犯だろうか…
ずるいっスよ
「ちょ、待ってくださいよ!浦原さんて紫苑とどういう関係なんですか?」
その時初めて喜助は修兵に向き直った
「おや、檜佐木サンじゃないですか。あと阿近サンも」
如何にも今、存在を知りましたと言わんばかりの白々しい声
「まさかとは思うんですけど、紫苑は…」
喜助はニコーっと怖いくらい満面の笑みを浮かべる
「紫苑はアタシの 恋 人 ですよ」
スッと一瞬のうちに修兵の真横に来た喜助は、修兵の耳元で声を落とした
「…もしかして檜佐木サン、紫苑に惚れちゃいました?」
まるで声が針のように修兵の脳内に刺さる
笑顔だった顔は一瞬で真剣な表情に戻り、帽子の下から鋭い眼光が覗く
「あ、いやその…!可愛い人だなって思っただけで、別に手を出そうとかそういうんじゃ…!」
「めちゃめちゃ口説こうとしてたじゃねぇか…」
余計なこと言わないでください!と目力で阿近に圧をかける
「へぇ…」
喜助の目が更に鋭いものになったとき、嫌な予感がした紫苑は咄嗟に会話を遮った
「喜助さん、そろそろ帰ろう…」
両手で持った器具を落とさないように、右手で喜助の袖をクイクイっと引っ張る
か、可愛いっス…
「ごめんごめん、帰ろうね。ほら、それ渡して」
紫苑の頭を撫でてから、両手いっばいの器具を受けとる
「阿近さん、檜佐木さん失礼します」
勇音さんに続いて、私と喜助さんもそれぞれ挨拶をした
「だからやめとけって言ったんだ」
「そんな…俺、運命の相手だと思ったんスよ?こうビビビって」
「諦めな。あの人にゃ敵わねぇよ」
阿近の最後の言葉には、不思議と説得力があった
「あの子いつから居たんスか?あんな美人見たら忘れないと思うんですけど…四席ってずっと空席だったんですよね?」
修兵はしゃがみこみ、阿近を見上げる
「あぁ、100年と少し前くらいかな。諸事情で100年眠ってたんだよ。今も四番隊に入院してんだ」
「 100年て…諸事情ってレベルじゃないですよ!」
「まぁこの話はまた今度な。お前休憩入んだろ?俺はまだ仕事があるから」