第42章 触れると、暖かい
閉じようとする瞼を必死に持ち上げ、紫苑は喜助を見つめる
「……かえっちゃうの?」
袖を小さく掴んでは、寂しそうに言う小さな声が胸を締め付ける
「紫苑…」
そう言った時にはもう、紫苑の瞼は限界だったらしい
手の力が抜けて、袖が解放される
ずるいっスよ…
あんなこと言われたら、帰れない…
早く退院しないかな…
喜助は椅子に座って紫苑を見つめていた
…─
結局あの日、帰るに帰れなくて四番隊の消灯時間ギリギリまで紫苑の傍に居た
さすがに店を開けすぎかな
テッサイはああ見えて怒ると怖い
だけど、ほぼ毎日のように、今日もまた此処に来てしまった
早く会いたい
先走る気持ちを抑え病室の扉を開ける
「居ない…?」
心がザワッとした
霊圧を探ったけど、今の紫苑の霊圧はかなり弱くて発信器に頼ることにした
「ったく…ボクに黙って出歩くなんてお説教っスね」
…─
「なぁ、あの噂の女神が来てるって本当か?」
「今阿近さんと話してるらしい」
「どれどれ?」
阿近に
仕事の引き継ぎがあるから今すぐ来い
って隊長が言ってる、とか何とか言われて、慌ただしく外出許可を取り、十二番隊に来た
「全く酷い話しよね、こっちは入院してるっていうのに」
「仕方ないですよ。涅隊長、あぁいう方ですから」
急な外出だったにも関わらず、勇音さんが付いてきてくれた
周りの隊員たちがザワザワと落ち着きが無い
きっと私を物珍しさで見ているんだろう
「悪ぃな、隊長は待たされるの嫌いだからさ」
阿近が本当に申し訳なさそうな顔をしているから、まぁいっか
マユリさんに現世任務のための器具やら書類やら色々と渡された
どうせやらせるならとことん利用する…って感じが伝わってくる
「何?使い方が分からないと言ったかネ?」
「だって私研究員じゃなかったじゃないですか」
「君みたいな無知で無能な小娘の何処に、あの男が惚れたのか100年たってもさっぱり分からないヨ」
ため息をつくマユリに、阿近が話しかける
「隊長、これはちょっと厳しいんじゃ…?」
「そんなに難しいの?」
阿近は頑張れと言わんばかりに、ぎこちない笑顔で私に笑いかけてきた