第42章 触れると、暖かい
「でも紫苑が目覚めたのは、浦原さん、アンタが来たからだ」
阿近はまっすぐに、喜助を見つめる
「正直悔しかった。俺じゃ駄目なのかって…」
「阿近サン…」
「もうあの頃の、ガキだった俺じゃない。紫苑をこの手で守ってやれる。支えてやれるのにって、思ったんスけど…」
阿近は唇を噛み締めて、次の言葉を言った
「でも、アンタと居ることがやっぱり紫苑の幸せで…俺は、好きな女の幸せを願える男になりたい」
そこで阿近は喜助に向かって頭を下げた
「紫苑を、よろしくお願いします」
「阿近サンによろしく言われる筋合い無いっスけどね」
そう言った喜助の顔は、優しく笑っていた
「男前になったのぅ、阿近」
「いや、100年経っても、あの人には叶わないですよ…」
先に歩き始めた喜助を見ながら、阿近と夜一が話していた
…─
「紫苑、出掛けるよ」
「へ?」
朝一番に来た喜助さんの言葉に、私は理解が追い付かなかった
「卯ノ花隊長に外出許可は取ってあるから」
さ、着替えて着替えて
とあたふたする私を急かす喜助さん
「どこに行くの?」
「ん、ちょっとね」
何も教えてくれない喜助さんに首を傾げながら、私は後ろを着いていった
「懐かしい顔だネ」
「お久しぶりです、マユリさん」
連れてこられたのは十二番隊だった
100年前の記憶が甦る
来るときに見えた技術開発局は、喜助さんがいた頃と随分変わって大きくなっていたけれど、隊舎のほうはほとんど100年前と変わっていなかった
「おい、阿近」
知った名前に紫苑は少しばかり緊張する
「よぉ、久しぶりだな」
「え、阿近…てあの小さかった?」
「そっスよ」
「男前になっただろ?」
あの小さかった阿近が、今は自分よりも背が高く立派な青年になっていた
「惚れてもいいぜ」
そう言って紫苑の腰に回そうとした手を、喜助の扇子がバシッと叩き落とした
赤くなった手を擦る阿近をマユリが急かす
「おい、早くし給えヨ」
「すいません…」
阿近は紫苑に改めて向き直り、話し始めた
「紫苑、お前は退院したら十二番隊第四席として、現世調査任務を命ずる」