第42章 触れると、暖かい
気まぐれで聞いてやっていたとはいえ、仮にも四席を空席にしていたのは彼の願いだ
「紫苑を四席にしたまま現世に、ねぇ…」
阿近は少し考え、元とはいえ隊長格3人に囲まれても物怖じせずに答えた
「いいんじゃないスか?紫苑はこの人と離れてちゃ生きていけないんだし、四席は特例で2人配置。紫苑は現世調査任務とでも適当に銘打って…」
自分が考えていた、現隊長を説得させるための案のいくつかを、阿近が言ったことに喜助は驚いた
「フン、阿近と言い浦原喜助といい、昔から紫苑に甘すぎるんじゃあないかネ」
「「惚れた弱味っスよ」」
同時に同じ言葉を発した阿近と喜助は互いを睨み合い、夜一とマユリは飽きれ、野次馬の隊員たちは2人の言葉に驚いた
「アタシたち、また仲良くやれそうっスね」
皮肉まじりの喜助の言葉に阿近も苦笑した
「そうだな」
2人の間には目に見えない火花が散っていた
「紫苑て人、浦原元隊長の…恋人か何かか?」
「え、あの人恋人いたの?」
「嘘、ちょっといいなって思ってたのに」
「どんな人なんだろうね」
作業の手を止めずにいるマユリの背中を喜助は見つめていた
「涅サン……」
「…………」
「お願いします」
喜助が、頭を下げた
その行動に、その場に居た全員が驚愕する
浦原喜助が…
涅隊長に頭を下げた…
その姿をマユリは横目でチラリと見る
良い
実に良い気分だヨ…!
この大量の野次馬の前で、あの忌々しい存在の浦原喜助が私に頭を下げている
マユリは体の奥底から沸き上がってくる高揚感を必死に隠して静かに言い放った
「……勝手にしたまえヨ」
「ありがとうございます!」
マユリの許可を得た喜助は満足気に、夜一と共に十二番隊を去った
「浦原さん!」
そんな2人を追いかけてきたのは先程火花を散らしていた阿近だった
「阿近サン…さっきは助かりました」
「俺、この100年、何回も紫苑の見舞い行きました。何回も目が覚めるように祈った…」
喜助はきちんと阿近に向き合い、彼の言葉を受け止めた