第42章 触れると、暖かい
もう離さない
もう離れない
もう二度と、君を置いていかないから
「またボクと、普通の日々を過ごしてくれますか?」
そして、紫苑は笑った
大好きな笑顔だ
何度も写真で見た
何度も夢で見た
大好きな紫苑の笑顔
これからもその笑顔を見せてほしい
…─
あのあと、紫苑は再び眠りについた
卯ノ花隊長が言うには
「かなり体力が落ちているでしょうから、そのせいでしょう」
ということだった
本当はすぐにでも現世に連れていきたかったけど、100年の眠りから覚めたばかりの紫苑は、そのまま入院を余儀なくされた
しばらくは体も上手く動かせず、数日たった今もまだ、ベッドから降りられていないらしい
100年眠っていた事による後遺症なのか、紫苑は未だほとんどの時間眠っているらしい
毎日のように足を運んでいるが、毎回紫苑は眠っている
ボクは今日も紫苑の部屋へと向かう
扉を開いて、少し歩を進める
「……きすけ、さん……っ」
ボクは持っていたお見舞いの花を投げ捨て、彼女を抱き締めていた
100年ぶりに聞く紫苑の声
100年ぶりに抱き締めた感触
紫苑が目覚めたということが現実味を帯びていく
「100年経っても相変わらず、泣き虫なんスから…」
上半身だけ起こしている紫苑に合わせて、腰をかがめて涙をなぞる
「喜助さんも、泣いてた…よね」
「紫苑の泣き虫がうつったのかな」
「不安だったの…あの日、喜助さんが迎えに来てくれたのは、やっぱり夢だったんじゃないかって…っ」
喜助は紫苑の背中を優しくさする
「もう一度ちゃんと、顔見るまで…落ち着かなくて。何度も何度も、勇音さんと卯ノ花隊長に確認して…」
安心させるように、強く強く抱き締める
「言ったでしょ、迎えに来たよって。ちゃんと此処にいる。もう離さない、離れない…これからも、ずっと一緒に居て欲しい…」
紫苑はその言葉にボロボロと涙を流し、抑えきれない気持ちを次々に吐き出す
「ちゃんと、居る…っ…?」
「居るよ」