第42章 触れると、暖かい
震えながら確かめる声は、あの時と同じようで違った
「も……っ、どこにも行かない?」
「行かないよ」
彼女を、安心させてあげられる言葉を
あの時言ってあげられなかった言葉を
何度でも言おう
何度でも伝えよう
「元気になったら、一緒に現世に来てくれますか?」
紫苑は目を見開いたけど、すぐに下を向いた
「行きたいけど私…」
あの時は必死だった
必死で、この人を失いたくなくて
必死で付いて行こうとしていた
でもこの人は今、此処にいる
どこにも行かないと言ってくれた
命を捨ててまで付いていく必要はなくなった
そんな考えを巡らせていたとき、喜助さんが私の手を握った
びっくりして顔をあげると、ニッコリ笑った喜助さんがいた
「大丈夫。ボクが治してあげるから」
さっぱり分からなかった
彼が何を言っているのか
確かに喜助さんは私の治療薬を作ってくれて、現世に行けるようにしてくれた
けれどそれは一時的なことで、もし仮にその期間が延びたんだとしても、私は現世に長く留まっていることはできないというのに
「どういうこと?」
「退院したら、ね」
それだけ言って、喜助さんは話題を変えた
「ところで…………紫苑?」
話題を変えようと一度紫苑から目を離し、再び戻した時、紫苑は胸を押さえて、その額は心なしか汗ばんでいた
「ごめん、ちょっと……横になっていいかな」
きっと体力がなくなっているせいなのだろう
紫苑は体を起こして話をして、涙を流して…それだけでも息が上がりそうになるくらい…相当なものなんだろう
「気づかなくてごめん…」
紫苑は首を横に振る
紫苑を弱くしたのはボクだ
紫苑が泣く理由も、体調を崩す理由もほとんどはボクが原因だった
今こうやって、紫苑が少しの言動で床に伏せてしまっているのも、ボクのせいだ
喜助は罪悪感に蝕まれ、再び目線を逸らす
「喜助さん、そんな顔しないで」