第42章 触れると、暖かい
「雪姫……?」
「紫苑様、ここから出して差し上げますわ」
「え?」
喜助様の薬の効果が切れる瞬間
今度は私の力で、紫苑様を眠らせた
「どういうこと?」
信じていたから
あの方は、必ず来てくださると
「お迎えが来ましたわ」
「迎……え」
紫苑様の目の色が変わった
100年ぶりに見た、生きた顔をしていた
…─
「迎えに来たよ」
その言葉の数秒後、紫苑の頬に触れていたボクの手に、冷たいものが触れた
「紫苑……!」
喜助の数歩後ろに立っていた勇音は、両手を口にあてて息を飲む
卯ノ花も思わず目を見開く
100年開くことのなかった目が、100年の眠りから
ゆっくりと
暗闇に光を差し込む
紫苑の瞳に、喜助の姿がハッキリと映った時、紫苑の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた
遅くなってごめん
一人にしてごめん
生きててくれてありがとう
言いたいことはたくさんあるのに、声にならない
意に反して持ち上がらない紫苑の左手を、握りしめた
想いをその手に託すかのように、強く強く握りしめた
紫苑のものとは違う涙が手に触れて、自分が泣いていることに気づいた
あぁボクはやっぱり、涙もろくなってしまった
「…………ッ……」
力なく握り返してきた紫苑の手が優しくて、涙を拭ってくれようとしているように感じた
「……っ…」
紫苑の口が僅かに開く
何かを伝えようとしているのに、それは声にならなかった
「長い間眠っていたのですぐに声が出ないだけでしょう。自ずと話せるようになりますよ」
紫苑は少し悲しそうな顔をして、それでも声を出そうと口を開ける
その姿が愛しくて、紫苑の頭を撫でた
その手は頬をなぞり、顎に添えられた
喜助の唇が紫苑の唇に優しく触れる
一瞬震えた紫苑は、後ろに立つ卯ノ花と勇音を見て、照れたように頬を赤らめた