第42章 触れると、暖かい
よく晴れた日の午後
「どこに行くのじゃ?」
ずっと卓袱台に目を落としていた喜助が、意思を持ったように立ち上がった
「迎えに行ってきます」
喜助の背中を見つめる夜一からは、思わず笑みがこぼれた
「儂も行っても良いか?」
「察してくださいよ」
「分かっておる」
喜助の声も些か微笑みが含まれている気がする
夜一の声も、柔らかい
紫苑はまだ、眠り続けている
ボクが行って、目覚める確証はない
高鳴る鼓動を感じ、穿界門を通った
四番隊に着くと、100年前を思い出す
入院がちだった紫苑が、多くの時間を過ごした四番隊
病室に続く通路を、何度も通った
何度も迎えに行った
柄にもなく緊張する
この扉の向こうに、紫苑がいる
100年間、会いたくて会いたくて仕方なかった
何度も何度も後悔した
何度も何度も自分を責めた
紫苑は、ボクを許してくれるだろうか
迎えに来るのが遅くなって、怒っているだろうか
許してくれなくてもいい
怒られてもいい
もう一度君と、普通の日々を過ごしたい
…─
「浦原さん!」
扉に手をかけようとしていたまさにその瞬間
懐かしい声に顔を向けた
「虎徹サン」
泣きそうな目で駆け寄ってくるのは、100年間きっと、紫苑を守ってくれたであろう
紫苑の大事な友人
「迎えに…来てくれたんですねっ」
勇音の目からは涙が溢れる
「紫苑さん、待ってますっ…から」
「虎徹サン、今まで紫苑をありがとう」
勇音の後ろからもう一人の人影が現れる
「卯ノ花隊長」
「お待ちしてましたよ。ずっと」
喜助は頷くと、紫苑の部屋の扉を開けた
100年前と変わらない白い肌
眠っていても髪は伸びるんスね
初めて紫苑に会って、意識を失った彼女を四番隊で見ていた
その時と変わらない綺麗な顔をして
「紫苑…」
そっと頬に触れると、暖かい
あぁ君は、ちゃんと生きてるんスね
生きててくれたんスね
「迎えに来たよ…」
早く起きて
君に伝えたいことがたくさんある
君にあげたいものがたくさんある
君に見せたい景色がたくさんある