第41章 幸せだったのはボクのほうだ
"喜助さん……"
「紫苑……?」
"喜助さん……"
「泣いてるの?」
"喜助さん……"
「泣かないで」
"…いつ、迎えにきてくれるの?……"
「紫苑……っ」
そこで目が覚めた
「大丈夫か……喜助」
「夜一サン……」
喜助の部屋の前を通った時、苦しそうな声が気になり部屋に入った
うなされていたのだろう…身体中に嫌な汗をかいている
枕の下には、紫苑の寝顔の写真をいれた
なのに、今日は全く違う内容の夢だった
「紫苑の夢でも見たか?」
「……紫苑が泣いてたっ……」
喜助は頭を抱える
「……泣いてたんスっ……いつ、迎えにくる?って……」
やりきれない思いが、胸につかえる
「迎えに行きたい……っ……紫苑をっ……」
「喜助……」
あの子が居ない世界はこんなにも暗い
あの子が居ない世界はこんなにも狭い
紫苑はボクの光だった
…─
「ねぇ雪姫…」
「はい、紫苑様」
彼女は名前を呼ぶとすぐに現れる
まるであなたは一人じゃないよって言うように
私が居ますよって言うように
「あの黒い薔薇は?」
此処に来てからというもの、ずっと気になっていた黒い薔薇
「美しくないわけじゃないけど、雪姫は好きじゃなさそう…」
「…時期が来たら、お話しますわ」
そう…と小さく返事をした
「ねぇ、そろそろここから出して…」
「無理ですわ。これは私の力ではなくて、喜助様の力ですから」
紫苑は100年間、精神世界で雪姫と共に居た
喜助さんが私を眠らせたことは雪姫から聞いた
「喜助さんは……迎えに来ない……」
「来ますわ!今も紫苑様を迎えに来る方法を探しているに決まってますわ!」
紫苑様の心が折れかけている…
喜助様の薬で眠らせていられるのはあとほんの僅か
もし、目を覚ましてしまったら紫苑様は…
「喜助さんの居ない世界に、意味はないの…だから、ここから出して」
「もし、出たらどうなさるおつもりですか?」
「喜助さんの居ない世界に、生きる意味はないの…」