第41章 幸せだったのはボクのほうだ
枕の下に本や写真などを置いて、寝る前に強くイメージするとその夢がみられるという…
アタシは自分が科学者なのも忘れて、枕の下に写真を挟んだ
"喜助さん、膝かして"
紫苑はボクの膝に頭を乗せて、目を閉じた
"今日は甘えん坊ですね"
"寝ちゃうんスか?"
彼女からの返事はなかった
かわりに静かな寝息が聞こえてきた
紫苑の髪を撫でながら、葉桜を見つめる
"誰にも渡さないっス……"
ボクだけの紫苑…
─そこで夢から覚めた
まるで現実だったかのように、この膝に、感触を覚えている
ずっと冷たかった胸の奥の奥から、暖かなモノが湧いてくる
100年ぶりに彼女に会えたかのような感覚に、体中の血液が沸騰しそうだ
枕の下に挟んだのは、葉桜を見に行ったときの写真…
珍しく紫苑が素直に甘えてきて、穏やかな時間を2人で過ごして、幸せの最中にいた
それと共に、夢は所詮夢なのだと
未だ半分空いた空白の隣のスペースに、そっと手を置いた
「紫苑…………」
喜助は拳を握りしめた
…─
夏にしては暑すぎない空気が過ごしやすい
耳には祭囃子が聞こえる
紫苑はいつの間にかアイスを食べていた
"アイスが欲しいなら買ってあげたのに"
"喜助さんも食べます?"
"いーんスか?じゃ、遠慮なく"
紫苑の食べ掛けのアイスをペロッと舐める
"き、喜助さんっ!"
"だって食べる?って聞いたでショ"
"もう1本買いますかって意味ですー!"
もぅ、と耳まで赤くする紫苑がかわいくて仕方ない
浴衣姿の彼女が普段より何倍も可愛く見える
─浴衣姿の写真を、枕の下に挟んだ
この頃は付き合ったばかりで、まだ紫苑は敬語だった
あれからアタシはその迷信に心を捕らわれて、毎日のように写真を入れ替えてはそれに纏わる夢を見ていた
ひとつひとつの夢は短かったが、正直ここまで正確に夢を見れるとは思っていなかった
「紫苑……会いたいっス」
喜助の声は彼女が寝るはずの、布団の半分に静かに落ちた