• テキストサイズ

With me

第41章 幸せだったのはボクのほうだ



先程から気づいてはいたが、店のある程度を見渡せる入り口を入って左の角

そこに座り、猫の夜一は喜助の紫苑に対する愛を感じていた


「喜助、聞きたいことがある」


夜一は喜助を追い越し、瞬く間に人の姿に戻り、奥の居間に座った

喜助はシャッターを下ろし、他の作業は後回しに夜一の元へ腰をおろした


「なんスか、珍しいっスね」


険しい表情をした彼女は怒っているようにも見えた


「あの日…」


その一言で喜助の目が曇る


「あの日、紫苑に何をしたんじゃ」

「…………」


紫苑は急に意識を失って倒れるように眠ってしまった

あの時喜助が何かしたとしか思えなかった


「その話…今しなきゃダメっスかね?」


気持ち悪いくらいの作り笑顔

今更そんな表情、儂になんの意味もないというのに


「100年も黙っておいて…いい加減話してくれても良いと思わんか」


喜助は目線を下げ、低い声で話しはじめた


「紫苑を」


喜助は扇子を閉じ、持つ手に力を込める


「眠らせました…」

「眠らせた?」

「100年、眠らせる薬を打ちました」


喜助は扇子を見つめ、少しの沈黙のあと口を開いた


「あの時、アタシに紫苑を迎えに行く手立ては無に等しかった。だから、眠らせたんス」

「どういう…」

「紫苑に、生きていて欲しかったからです」


喜助は目を細めて、あの時の紫苑を思い出していた


「あの時の紫苑は、覚悟をした目をしていた。アタシ無しで生きていく覚悟じゃあない」


夜一は未だ難しい顔で喜助を睨むように見つめる


「夜一サンも、分かったでしょう?」


夜一は肯定するように目を伏せた


「あれは、命を絶つ覚悟をした目だった」

「現世についていけないから、自ら命を絶とうとしたというのか」

「紫苑ね、最期に笑ったんスよ。愛してくれてありがとうって…」


夜一にもその言葉は聞こえてはいたが、紫苑の表情までは分からなかった


「どうして笑ったと思います?」


口調は優しく、夜一を見る目も細く柔らかい印象ではあるが、目の奥にはいつもの悲しみと後悔と、自責の色が垣間みえる


/ 761ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp