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With me

第41章 幸せだったのはボクのほうだ



喜助はそれに言葉を返さずに急須から湯飲みにお茶をいれ、平子に差し出す


「夢を、見るんスよ…最近」

「夢…?」


なんやどっかで聞いたような…


「あの日の夢っス」


あの日…とは、あの日だろう…


「毎日、夢の中で紫苑が泣いてるんス。行かないでって…」

「そらキツイなァ…」

「毎日のように夢に見るって、こんなに辛いもんなんスね」


あの時、ボクは紫苑に言ってしまった



"ただの、夢じゃないっスか…"



それを言われた紫苑はどんなに悲しかったか

どんなに辛かったか

今なら痛いほど分かる


もう一度ちゃんと、謝りたい…


「すみません……ちょっと……っ」


急に立ち上がった喜助は口元を手でおさえ、居間を飛び出し、流しに向かった


「なんじゃ平子か、来ておったのか」

「まだ嗚咽いとんのか…」

「あれでも良くなったほうじゃ…」

「原因はやっぱり…あれか」


夜一は自ら急須のお茶を湯飲みに注ぎ、頬杖をついた


「精神的なものじゃろ」

「…紫苑のことか…」


かといって喜助にかけてやる言葉も思い付かず、やっぱり帰ろう、と平子は帰り支度を始めた


「喜助によろしく言うといてくれや」


夜一に言い残すと、平子は自分たちのアジトへと帰っていった


あのあと、気がついたら俺らは現世に来ていた

言い辛そうな顔の喜助から全てを聞いていた時、違和感を感じた

現世に来たメンバーの中に、紫苑だけが居なかった

紫苑がどうなったんか気になった俺は、夜一に聞いた

喜助に聞くんはさすがに気が引けたからや

そしてそれをアジトに帰ってメンバーに伝えると…ひよ里が泣き出した


「紫苑っ……辛かった……っ……やろなァッ……!」


それをリサが肩を寄せ慰める


紫苑が今、向こうでどうしてるのか…今、知る術はない




…─




喜助はデータ化した自分の記憶を印刷した写真を居間で眺めていた


紫苑の笑った顔、花を眺める横顔、海で夜一サンに泳ぎを教わってる顔、アイスを食べる顔、花火を見上げる顔、雪だるまを作る顔、隣で寝てる顔…


ぽとり─


写真の一部が丸く滲む


「幸せそうな顔ばかりじゃの」



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