第41章 幸せだったのはボクのほうだ
「ボクの分は要らないっス…スミマセン」
いつの間に居間に来ていたのか
台所を少し覗いて鉄裁に声をかけては、また研究室に引きこもった
「あのままでは倒れてしまいますぞ」
「…………うむ」
…─
紫苑の体を拭きおえた勇音は、紫苑の脇に座り、手を握っていた
「きっと、迎えを待っているんでしょう」
「卯ノ花隊長…」
卯ノ花は勇音と反対側に立ち、紫苑の頭を易しく撫でた
「迎え…」
よく紫苑さんをこの部屋に迎えに来ていたあの人は、大罪人として現世に永久追放されたと聞かされた
私はどうしてもそれが真実だと思えなかった
あの人が、紫苑さんを残して行くわけがない
でも紫苑さんが現世で生きられないのは事実
…あんなに、愛していたのに
愛し合っていたのに
早く迎えに来てあげてください…
…─
「皮肉なもんスね…」
現世に来てすぐに、あの研究が完成するなんて…
今なら、今なら紫苑を…
だけど紫苑がボクのところに来ることはない
そして今、ボクが紫苑のところに行く術もない
そういう風に、ボクがした
卓袱台の上で、あの日渡せなかった指輪を、綺麗な化粧箱に入ったソレを転がしながら見つめる
「結局…渡せなかったのじゃな」
転がしていた喜助の手が止まる
あれからしばらくして、少しは食べるようになった
嘔吐することも、いくらか減った気がする
それでも顔は暗く、随分と痩せた
「あの状況で渡せるワケないじゃないですか」
「それもそうじゃの…」
"わかった!楽しみだから、ちゃんと寝る!"
ちゃんと約束を守って、ちゃんと良い子で寝ていたのに…
「約束……破ってばっかっスね…」
「…………」
喜助はそのままその場に、座布団を枕にして横になった
…─
「おーす。喜助おるかァ」
部屋の奥からゆっくりと歩いてきたのは浦原喜助
「どうしました、平子サン」
表情をほとんど変えず、覇気のない声で話しかける
「ちょっと世間話しに来ただけや」
邪魔すんでー。と居間に上がり込む
「エッライ顔色悪いなァ」