第41章 幸せだったのはボクのほうだ
100年前─
「……ハァ……ハァ……っ……かはッ……!!」
もう日が沈むというのに照明もつけず、暗がりの流しからは苦しそうな声が聞こえる
「喜助の様子はどうじゃ?」
「夜一殿…」
鉄裁は変わらないというように首を横に振る
夜一は卓袱台の、鉄裁の向かいに腰をおろして、流しのほうを見つめる
「見てられぬな…」
現世に降り立った喜助はすぐに平子たちの研究を始めた
完全に元には戻せなかったが、魂魄自殺とやらを止める方法を完成させ、内在闘争で内なる虚を抑えさせ、平子たちは虚化しながらも正気を保てるようになった
今も研究は続けているらしいが、一段落といったところだろう
その後立て続けに、秘かに何らかの研究を始めたらしい
その研究も思いの外早く完成したらしく、喜助はあの日から初めて、落ち着くことができたはずだった
「……っ……はッ……」
しかしそれは間違いだった
研究の対象が少なからずなくなった今、喜助に残ったのは初めて愛した者への、後悔と自責の念…
みるみるうちに覇気は無くなり、食事もロクに手をつけず、言葉を発することも少なくなった
「どういたしましょう…」
「こればっかりは、どうしてやることもできんじゃろ…」
今の喜助を救えるのは、誰も居らんからの…
襖が半開きになったままの喜助の研究室
その机の上には紫苑と2人で撮ったらしい写真が飾ってある
写真なんぞ持ってくる暇があったのか?
と聞いたら
"違いますよ。そんな時間なかったから、ボクの記憶をデータ化させて印刷したんスよ"
その頃はまだ元気があった
紫苑と離れたばかりでまだ、実感が湧かなかったのじゃろう
紫苑はどうしているじゃろうか…
事件のほとぼりが冷めるまで、尸魂界と一切の関わりを絶っている
あの時喜助が紫苑に何をしたのかも、あのあと紫苑をどこに連れていったのかも…聞くことができなかった
コンコンコンコン─
台所から包丁の音が聞こえる
鉄裁が夜ご飯を作り始めたのだろう
此方に来てから彼は家事に目覚め、炊事洗濯掃除などほとんどを自ら進んでやってくれている