第41章 幸せだったのはボクのほうだ
第41章 幸せだったのはボクのほうだ
100年後─
十二番隊隊舎─
「俺が三席っスか?」
隊長の涅マユリから任命状を受け取った阿近は顔をしかめた
「何か文句あるかネ」
「嫌……別に」
マユリは阿近の言葉の間に目を僅かに細めた
「全く……私は席次などには興味はないのだがネ。いつまでも三席と四席を空席にしとくわけにもいかないんだヨ。上の連中がうるさいんでね」
任命状を畳んで懐にしまった阿近は、100年も経って今更かよ…と心のなかで悪態をついた
「四席は空席って訳じゃ…」
「分かっているヨ。今まで私に文句の一つもつけず従ってきたお前の唯一の我儘だからネ。面白そうだから聞いているだけだヨ」
「ありがとうございます」
阿近はマユリの元を離れて、表に出たところで煙管を吸い始めた
煙と同時に軽いため息をついた
「いつまで寝てんだよ…」
あの忌まわしい事件から100年
恋人だった浦原さんに置いていかれたのか何なのか、紫苑は1人こっちに残された
あぁ嫌、連れてってもらえなかったのか
紫苑は現世では生きられないから…
紫苑の仲良かった、猿柿副隊長や矢胴丸副隊長、平子隊長、四楓院隊長たち十一人、そりゃもうごっそりと尸魂界から姿を消した…
紫苑はあの日から、ずっと眠ったままだ
もう100年も…
任命状をクシャッと雑に丸め、投げ捨てた
「紫苑の見舞いでも行くか」
…─
四番隊─
「紫苑さーん、体拭きますね」
返事のない彼女の体を固く絞ったタオルで拭く
「熱くないですか?」
今にも起き出しそうな、目を開けそうな、綺麗な顔をして彼女は眠っている
「紫苑さん、そろそろ起きてくださいよ…」
タオルを持つ手に力がこもる
100年毎日、声をかけ続けた
あの日、隊舎前であなたを見つけてから…
あそこに居たのは、紫苑さんを運んできたのは誰だか、予想はつく
十二の羽織が掛けられていたことが、何よりの証拠
「大丈夫、私が傍に居ますから…」
早く、あなたと話したい