第40章 さようなら
「…どうして」
紫苑はその場に座り込んだ
力なく開いた手の平には、血が滲んでいた
「どうして、私の大好きな人たちはみんな居なくなっちゃうの…」
「紫苑…」
「どうして私は…大切な人たちを守れないの…どうすれば……喜助さんは…私の傍に居てくれるの?…前より強く…なったのに」
震える瞳を見てられなくて、紫苑を抱き締めた
その体はやっぱり小さくて、頼りなくて…ボクが護ってあげる…そう、思っていたのに
何をしてくれなくたって、紫苑の傍に居たいのに
「ごめん…っ」
約束…守れなくて
「本当に…サヨナラ…なの?」
返事が出来なかった
変わりに紫苑を、思い切り抱き締めた
震えてるのは、紫苑だけじゃなかった
「喜助さん…」
夜一さん、ごめんなさい
やっぱり私、喜助さんと離れる覚悟なんてできなかった
紫苑はくっと背伸びをして、喜助の唇に自分の唇を重ねた
そして惜しむように、ゆっくりと離れた
「今まで、愛してくれて…ありがとう…」
紫苑が笑った
泣き虫で
ボクが居ないと生きていけないくせに
すぐに体を壊すくせに
違う、紫苑はこんなに強くない
ずっと一緒に居たボクが一番よくわかってる
こんな状況で、笑えるような子じゃない
紫苑は、ボクが居ないと生きていけない
ボクが居ないと…
「迎えに行く…絶対に迎えに行く!…どんな、手を使っても!」
だからそれまで、絶対…生きていて
「喜助さ…っ」
「どれだけ時間がかかっても、絶対迎えに行くから。…愛してる…紫苑、今までもこれからも、永遠に愛してる…」
今度はボクから、唇を重ねた
「私も…っ、愛してるっ…」
涙のせいかな…
視界が暗くなっていく
喜助さんの唇から伝わる温もりが、体の緊張を溶かしていく
まるで海に浮かぶように…
ふわふわと
もう一度、喜助さんと海に入りたかったな…
もう一度、お花見に行きたかったな…
そういえば、渡したいものって、なんだったんだろう…
でも、もう何も要らない…
何も要らないから
もう一度
あなたとただ普通の日々を
過ごしたい…