第6章 初恋の人に似てる
紫苑の問いに喜助はもちろん、と言いたげに首を縦に振る
「自分のことは自分が一番、良く分かってますから」
夜一はしばらく考え込んだが、答えにたどり着かず話題を変える
「まぁ良い」
夜一は真面目な顔になった
「紫苑、お主に渡したいものがあるのじゃ」
「渡したいもの?」
夜一はヒラっと1枚の写真を見せた
その写真を見た紫苑は息をするのも忘れてしまったみたいに、固まってしまった
「それは西園寺家が娘が産まれたからと、見せに来てくれた時に撮ったものじゃ」
そこには若い両親、お母様に抱かれている産まれたばかりの私、市松さん、琴乃の両親と、同じく産まれたばかりの琴乃が写っていた
「市松という使用人がいたじゃろ。奴は元々四楓院の使用人での。ある日、助けられた恩があるとかで、西園寺家に入りたいと言ってきおった」
「…市松さんは、とても優しくて思いやりがあって、私たちにはもったいないくらい素敵な方でした」
紫苑は懐かしむように写真を指でなぞる
「西園寺家は市松の縁もあっての、四楓院家によく遊びに来てくれた。しかし、それをよく思わない他の貴族からいろいろとやっかみを受けての…此方は気にしなかったが、なるべく来ないようにと言ったんじゃ」
「そうだったんですね…私何も知らなかった」
「西園寺の事件は聞いた。何もできなくてすまなかったのぅ」
夜一は悲しそうな顔をし、頭を下げた
「そんなっ、夜一さんは何も悪くありません!その、お気持ちだけで、とてもうれしいです」
頭を下げる夜一を紫苑は慌てて制止する
やっと顔をあげた夜一を見る
「私たちの写真を、取っておいていただいてありがとうございます。家も、思い出も、何も…かも、燃えてしまっ…て、形見ひとつ…残ってなかった‥からっ」
隊長たちの前で泣くべきではないと、我慢していた紫苑はついに限界がきてしまった
紫苑の目からは涙が止めどなく溢れてくる
写真を握りしめる手に力がはいる
喜助は夜一の視線を感じた
(抱き締めてやらんか、喜助)
夜一は小声で喜助に向かって囁く
喜助は一瞬え?という顔をする
ボクが抱き締めてあげて、いいんスかね…