第40章 さようなら
夜一さんが居なくなってからどのくらい、そこに居ただろう…
窓の少ない局内では朝か昼か、夜かも分からない
紫苑はゆっくりと立ち上がり、ふらつく足取りである場所へ向かった
「ちょっと話したくて…」
返事のない彼女に紫苑は声をかける
「此処に来るのは多分、最後になると思うから…」
強い風が外套をはためかせる
草木が揺れる音に紫苑の声がかきけされそうになる
「琴乃なら、こんなとき私に…なんて言うかな…」
会いたいよ…琴乃…
「私、間違ってるかな…っ」
琴乃、工藤さん、市松さん、東雲さん、お父様、お母様…
大好きだよ…
紫苑はその場を後にした
拳を握りしめて、愛しいあの人のところへ向かった
…─
双極 地下─
地下への入り口が開けられた音がした
夜一は喜助に気づかれないように、入り口に向かう
幸い彼は作業に集中していて、こちらの様子に全く気を向けていない
「紫苑、大丈夫か…」
「…はい」
その目には、ひとつの覚悟が宿っていた
心配していたが、思ったより大丈夫そうじゃの…
今思えば、そんな自分を蹴り飛ばしてやりたかった…
「喜助はまだ作業をしておる。終わるまで此処に居るのじゃ」
紫苑を少し遠くの岩の影へと身を潜めさせる
岩影から覗くと、大好きな人たちの変わり果てた姿があった
「っ……ぁ……」
ひよ里さん…リサさん…白ちゃん…平子隊長…六車隊長…愛川隊長…ローズ隊長…ハッチさん……
夜一から聞かされてはいたが、目の当たりにすると体の奥底から何かがあがってきて、思わず口をおさえる
「見ない方が良い…」
視線をはずせない紫苑を夜一が座らせて休ませる
疑っていたわけではないが、夜一の言っていたことは嘘ではなかった
紫苑は喜助の作業が終わるのを待った
胸の鼓動を必死に抑えながら…
「顔色が悪いぞ…」
「大丈夫…です」
やはりキツかったか…
夜一は紫苑の震える肩をさする
喜助の作業は思ったよりも早く終わった
「ふぅ…」
そこには十人分の義骸が出来上がっていた
それに自身が先に入り不具合がないかを確認する