第40章 さようなら
「喜助には悪いけどな、こんな夜に薄着の娘ほっとくわけにもいかんねん」
我慢せぇや
その羽織の暖かさに、ずっと我慢していた眠気が一気に襲ってきて
羽織に手をかけて脱ごうとしたとき、私の視界は暗闇に包まれた
「紫苑!?」
咄嗟に紫苑を抱き止めると、小さな寝息をたてていた
「そういやずっと眠れへん言うとったな…」
喜助まだ起きとるやろか…
俺は隊首室に紫苑を寝かせて、喜助に連絡した
「なんスか平子サン…こんな時間に」
「えっらい機嫌悪いなァ」
「用がないなら切りますよ」
「紫苑おんで」
「はい?」
「眠っとる。ここに居させてもエェけど、迎え来んなら早よしぃや」
そう言って俺は通話を切った
喜助は想像通りほんの数分でやって来た
「早っ」
「なんだって平子サンとこに……」
言いながら紫苑の横に座り、その手を握りしめる
「別に俺んとこに来たわけやないで」
紫苑がやっと寝たことに喜助は久しぶりに安堵する
「そのへんフラフラしとったから保護しただけや」
「ありがとっス…」
「喧嘩でもしたんか?」
「…………」
喜助は紫苑の頭を撫でると、向かいのもうひとつのソファに座った
「ただの夢だって、言っちゃったんス」
「ほぉ」
「そんな悪夢みたいな夢、毎日見てたらそりゃキツイっスよね…」
「せやなァ」
「なんとか安心させてあげたいんスけど…」
どうにもその方法が思い付かない
どうすれば紫苑は笑顔になってくれる?
「そういや前に琴乃が言ってたわ」
「琴乃サン?」
「喜助は紫苑の父ちゃんに似とるんやて」
「お父様…スか?」
初めて聞いた…
そういえば前に、まだ紫苑と付き合う前に西園寺家の家族写真を焼き増ししたときに見たけど、特別似てるなんて感じはしなかった…
「髪型とか言うてたような…。父ちゃん亡くしとるから、ちょっとしたことやろけど、喜助に惹かれたんやないかって」
「なんか、複雑っスね」
喜助は苦笑する
「喜助が紫苑の家族になってくれたらエェのにって、琴乃言うとったわ」
「どうせならお父様より、旦那になりたいっス」