第39章 だって好きなんだもん
パチッと交わる視線
思わずそらす
「何見てたんスか?」
ニヤっとした顔で覗きこんでくるから、赤くなった顔を見られたくなくてしゃがみこんだ
「紫苑?」
「……だもん」
「え?」
小さい声で何を言ったのか
ボクにはわからなかった
「だって好きなんだもん…」
そんなこと言われたら、ボクのほうが顔赤くなっちゃうよ
「ボクも大好きっスよ」
後頭部に手を回し、紫苑の頬に唇を寄せる
もっと赤くなる頬を両手で隠す仕草もかわいくてしょうがない
荷物があるところまで戻り、何をするでもなく過ごす
こんな時間が好きだ
紫苑と同じ時間を共有する
それだけで、幸せだというのに
クイクイっと隣の紫苑がボクの袖を小さく引っ張る
ん?と顔を向けると、少し顎を上げてボクを見つめる
何も言わない紫苑
少し考えていると徐々に頬が赤くなっていく
ちゅ
正解だったみたい
満足そうに小さく微笑んでボクに背中を預けて向こうを向いた
「可愛くてたまらないんスけど」
ボクも向きを変えて、紫苑を自分の足の間に入れて後ろから抱き締める
「小さいっスねぇ、紫苑は」
「喜助さん、くすぐったいよ」
紫苑の肩に顔を埋めると、身を捩る彼女
首筋にキスを落とすと、もぅと頬を膨らませてる姿が脳裏に浮かぶ
「ね、待って」
そう言ってボクの腕をすり抜けていく
「こらこら、逃げちゃ駄目っスよ」
「だって顔見たいの」
ボクに向き直って足を揃えてボクの膝の上に座る
「喜助さん、好きだよ」
ボクの首に手を回して、膝の上に座ったってボクより低い目線で見上げてくるのが可愛くないワケがない
唇を指でなぞるとたまらなくヤラシイ顔をすることに、それがボクの心を鷲掴みしていることに彼女は気づいているんだろうか…
何度も軽いキスをすると、段々と無意識に紫苑の口元が緩んでいく
「ん……」
珍しくほとんど無抵抗な彼女の唇の間から舌先を侵入させる
紫苑から甘い吐息が漏れる
ボクの首に回した腕に力が入る
キスをするのをやめると、少し残念そうな紫苑の顔がボクの胸をチクリと刺す