第39章 だって好きなんだもん
桜の季節になった
あちこちで咲く桜が、どうしても目に入ってしまって、その度に小さく胸が痛んだ
隊のお花見も、喜助さんと行きたかったお花見も、全部やめた
辛かった
琴乃と一緒に見るはずだったのに
「本当に葉桜でいいんスか?」
「いいの」
桜が散って、葉桜と言われる頃
お弁当を作って、喜助さんを連れ出した
「葉桜なら、見れるから…」
頭をポンポンと優しく叩くと喜助さんは、私の顔を覗きこんできた
「行きましょ」
「……ぅんっ」
私が桜を避けた理由をきっと分かって、何も言わないでくれているのが嬉しかった
「紫苑のお弁当は最高っスね」
「褒めても何もでないよ」
「紫苑、紫苑」
喜助さんのほうを見ると卵焼きを掴んだ箸が準備してある
「はい、口あけて」
「え、外だし恥ずかし…」
「誰もいないっスよん」
誰もいないなら…まぁいっか
「1回だけね」
「はい♪」
お弁当を片付けて、喜助さんとお散歩にいく
川沿いを歩く私の小さな歩幅に足並みを揃えてくれる
「葉っぱ、ついてますよ」
喜助さんが立ち止まって私の頭の葉っぱを取る
「喜助さんもついてるよ」
私も同じように取ってあげたいのに、身長が邪魔して届かない…
「背伸びしちゃって、可愛いなぁもぅ」
そう言ってしゃがんで葉っぱを取らせてくれた
「喜助さんが身長高いのが悪いんだもん」
「ありゃ、ボクのせいなんスか?」
立ち上がってまた手を繋ぐ
指をしっかり絡ませて
喜助さんと見るなら、葉桜だって悪くない
喜助さんと付き合って何年もたつのに、未だに私でいいのかなって思う
時々見る、喜助さんに想いを馳せて涙を流す子たちをなんとも思わないわけじゃない
心苦しいときもある
だけど、喜助さんだけは譲れない…
喜助さんを見つめていたら、視線だけをこっちに向けた喜助さんと目があった