第39章 だって好きなんだもん
第39章 だって好きなんだもん
そして今年も春がやってくる
新入隊員が入る少し前、恒例の人事異動
毎年琴乃と一緒だった
いつも前後の席次で、いつも一緒に昇進して
だけど今年は1人だった
それが凄く寂しい
「紫苑、これ…」
少し悲しそうに、申し訳なさそうに喜助さんは任命状を渡してきた
ゆっくりとそれを開くと
「四席…」
琴乃がいた席次だ
「もし気が進まなければ…」
「ううん、やる。琴乃の分まで頑張らなきゃ」
その笑顔に喜助は少し胸を撫で下ろした
…─
「行きましょうか」
手を繋いで向かう先は
「琴乃、私四席になったよ」
琴乃のお墓参り
今日で琴乃が亡くなって1年…
「琴乃がいた席次だよ」
今だってふと思い出すと胸が苦しくなる
「見せ合いする相手が居なくて、ちょっと張り合いがなくて…」
でも、救いだったのは琴乃が最後、笑顔だったこと
「琴乃に話したいこと、聞いてほしいこと、いっぱいいっぱいある、んだけど…っ」
ごめん…っ
心のなかの叫びは声にならなくて、その場から走り去った
「紫苑…」
泣きじゃくる私を抱き寄せて、ずっと頭を撫でてくれる大きな手
「琴乃のま、えで、泣いたらっ…あの子、心配っすると思って…っ」
「そうだね。その分ボクの前で泣いていいから」
「泣かないって、決めたのに…っ」
どうしてこんなにも涙は溢れてくるんだろう
あんなに泣いたはずなのに
乗り越えたと思ったのに
やっぱりどこかで受け入れられない自分がいた
「無理に乗り越えようとしなくていいんスよ」
「喜助さん…」
「大丈夫。立ち止まってもいい。ゆっくり紫苑のペースで進んでいけばいいんスよ」
「…うん」
喜助さんはいつも、私の欲しい言葉をくれる
喜助さんの言葉は不思議と、心を落ち着かせてくれた