第38章 今度は失わないように
「それで、つまり私は卍解ができるってこと?」
「まぁ、そうなりますわね」
驚いた
これから修行しようといったところなのに、もう使えますよ、なんて言われたら…
というよりこんなんで良いのだろうか…
「私、なんにも努力してないよ…」
「いいんじゃないスか?雪姫サンがそう言ってるんだし」
「気が進まないのなら何か試練でも与えてもらえば良いではないか?」
「試練…」
紫苑は雪姫を見つめる
雪姫は眉を曲げて、面倒臭そうに夜一を睨み付ける
「お願いできる?雪姫」
「雪、やってあげたら?」
紅姫の助言もあってか、雪姫は諦めたようにため息をついた
「紫苑様とお姉様の頼みなら、仕方ないですわね」
雪姫は紫苑と向かい合うように少し距離をとって立つと、両手を広げた
ポン、ポン…と雪姫を丸く囲むようにたくさんの花が浮かび上がる
100はあるだろうか…
「私の好きな美しい花たちの名前…全て答えられたら、卍解を使わせてあげますわ」
ニッコリ笑った雪姫はさっきまでの表情とは変わって少し楽しそう…
「そんなことでいいの?」
「やるんですの?やらないんですの?」
「やります!」
そして紫苑の試練が始まった
花の名前を当てると、その花が消えていく
喜助と夜一と紅姫は適当なところに腰かけ、紫苑の試練を見守った
「今更じゃが、喜助が紫苑の修行の願いを受けるとは意外じゃったぞ。暗に紫苑を傷つけるということじゃろ?」
それに対して喜助は紫苑から目線を外さずに答えた
「そりゃボクだって、できるならしたくなかったっスよ…」
「ならどうして…」
夜一の問いに喜助は少し悲しそうな顔をした
「もうあんな紫苑は見たくない…あんな思いはして欲しくないんス…」
喜助と夜一の頭には、つい最近までの笑顔を無くし、不安定だった紫苑の姿が浮かんでいた
「紫苑を傷つける全てから護りたい…そう思っていたんスけどね、そんなのは綺麗事だったんスよ」
「…………」
「だから紫苑が強くなりたいというなら、失わないように護れるようになりたいというのなら、ボクはいくらでも手をかそうと思ったんスよ」