第38章 今度は失わないように
顔を歪ませた雪姫は、夜一から顔を離し再び紅姫の元へ戻った
雪姫と紅姫は3人の存在を忘れ、思い出話に花を咲かせ始めた
久しぶりの再会なのだろうと、3人は少しの間それを見守ることにした
「地獄耳じゃの、雪姫は」
その時紅姫の隣にいた雪姫が、キリッと夜一に鋭い視線を向けた
「儂、雪姫とは馬が合わないようじゃ…」
額に冷や汗をかいた夜一を、喜助はヘラヘラと見る
それに気づいた夜一の足が喜助の頬にめり込む
紅姫との再会に満足気の雪姫は、紅姫に呼び出された理由を聞かれ、思い出したかのように3人に近づいてきた
「それで、私を呼び出して一体何の御用ですの?」
ひどく面倒臭そうに着物の袖で口元を覆いながら、眉間に皺を寄せる
「紫苑に卍解の修行をさせたいのじゃ。やり方はお主に任せる」
「卍解…」
雪姫は覚悟の灯っている紫苑の瞳を見つめた
「…修行も何も、私は既に紫苑様に屈していますわ」
一瞬の沈黙
「へ?」
「なんじゃと?」
「それは一体…」
3人は驚きの表情を隠せない
「紫苑様が幼き頃、私に触れた時、その時に私は紫苑様のモノになったのですわ。その時から屈していましたわ」
「なんで私を?」
「んー勘ですわ」
勘って…
本当に気まぐれで気分屋なんだから
「あら、直感は大事ですのよ?」
ニヤリと笑う雪姫に、紫苑は敵わないな…と思った
「あの~、差し支えなければなんスけど」
雪姫が横目で喜助を見る
「ボクが雪姫サンに触れるようになったのは、何か理由があるんスか?」
「紫苑様が信用しているからですわ。そしてそれに違わぬ殿方だと思ったからですわ」
「じゃあやっぱり雪姫サンに信用されたってことっスね」
「ほぉ~つまり紫苑は儂のことを信用していないと?」
「そ、そんなことないですよっ!」
紫苑が慌ててフォローすると、雪姫が夜一を見下ろしてピシッと言い放った
「貴女のことは、まだよく存じ上げませんの!」
「こんなところで喜助に負けるとは…」
夜一は細い目で喜助を見る
喜助は嬉しそうにヘラヘラと口元を緩ませている