第37章 雨が、やんだ気がした
その時、物凄い早さで近づいてくる一人の影があった
「紫苑!」
「喜助さんっ?」
「駄目じゃないスか!勝手に居なくなっちゃ…もう心臓止まるかと思ったっスよ」
力いっぱいに抱き締められた
「喜助さん、苦しい」
「あ、ごめん」
傍で夜一はクククと僅かな笑みを浮かべている
「この世の終わりみたいな顔をしておったぞ、喜助」
「夜一サンだったんスか、紫苑誘拐したの」
「人聞きが悪いのぅ。四番隊まで送り迎えしてやったというのに」
「だって紫苑が1人で行くって言うもんだから…心配で」
元気になったとはいえ、まだまだ体は追い付いていないし、1人で出歩かせるなんて心配でおかしくなりそうだった
定期検査はさすがに四番隊舎まで行かなければいけないから、夜一サンにお願いしたんスけど、帰りに何処か寄るなんて思わなかった
「私、連絡入れたんだけど…」
「え?」
喜助は伝令神機を取り出し、電子書簡を確認する
「本当だ…」
はぁーー……と大きなため息をついて、その場に座り込む喜助
「紫苑のことになると全くといっていい程、余裕がないの」
「心配させてごめんね」
「いーや、無事でよかったっス」
そうだ!と紫苑はおもむろに立ち上がり2人に向き直った
頭に?を浮かべた2人は紫苑の言葉を待った
「あの、2人にお願いがあります…」
「お願い?」
「なんスか?」
紫苑はバッと頭を下げて
「私に稽古をつけてください!」
「稽古?」
紫苑は頭をあげて、自分の思いを伝えた
「私、強くなりたい…強くなって今度はちゃんと大事なものを護れるように……あの時私は無力だった…もう、大切なものを失いたくないの…」
紫苑の瞳には、覚悟が宿っていた
「儂の修行はちと厳しいぞ」
「望むところです!」
「喜助は?」
「覚悟はあるんスね」
紫苑は力強く頷いた
「分かりました」
「ありがとう!喜助さん、夜一さん、大好き!」
「こらこら、ボク以外に好きとか言っちゃ駄目っスよ」
「心が狭いのぅ、喜助は」