第37章 雨が、やんだ気がした
その間にも響く雷の音
ポロポロと無意識に流れ落ちる涙は布団を濡らして
喜助さん……喜助さん……喜助さん……!
来るはずがないのに、喜助さんの名前を呼んで
必死に頭の中の映像を切り替える
"私を殺して!"
「いやぁぁぁ!」
…─
雲ひとつない青空だった空が、急に陰り始めた
研究室に籠っていても分かる強く打ち付ける雨音、鳴り響く轟音
「まるであの日みたいっスね…」
そしてハッとした…
発信器が受信した紫苑の心拍数が上がってる
大丈夫なわけない…
「スミマセン、皆サン…」
同じく働く局員に申し訳なく謝罪した
「早く行ってあげてください!」
「きっと不安になってると思いますよ」
「こちらはもう大丈夫ですから」
ありがとう
ボクは部屋に急いだ
「紫苑!」
あきらかに盛り上がった布団
それをめくると、涙をボロボロ流しながら必死に呼吸をしようとする紫苑がいた
「き、す……」
「喋んなくていいから…」
紫苑の口を塞ぎ、二酸化炭素を送る
ボクの腕を必死に掴む姿がこんなときなのに、愛しいと感じる
「やっぱり来てよかった…」
落ち着いた紫苑に薬を飲ませて、布団に寝かせる
「仕事は…」
「放り出してきました」
ごめん、と小さく謝った紫苑の手を掴む
「一緒に寝よっか」
喜助さんは私の耳を塞ぐように、片方は胸板にあてて、私を包み込むように寝てくれた
トクトクと、喜助さんの心臓の音を聞いてると、雨の音も雷の音も不思議と遠ざかっていた
…─
気がついたらもう朝日が昇っていて、隣で喜助さんの寝息が聞こえる
きゅと抱きつくと、目頭に力をいれて喜助さんが目をあける
「ごめん、起こしちゃった」
「おはよ、紫苑」
昨日の雨は上がっていて、空はまた雲ひとつない青空に戻っていた
布団から出て窓の外を見上げる
「紫苑?」
空には大きな虹がかかっていた
隣に来て同じように窓を覗き込む喜助
「綺麗っスね」
「うん…」
「ねぇ紫苑」
喜助さんの顔を見ると、優しく私を見つめる目があった