第37章 雨が、やんだ気がした
翌日─
紫苑はゆっくり目を開けると、そこには愛しい人がいた
喜助さん、お仕事終わったんだ…
キュッと小さく抱きつくと、まだ寝ているであろう喜助が反射的にほんのり強い力で抱き締めた
あぁ私はこの人がいないと本当に何もできない…
喜助さんがいてくれてよかった…
薬を飲んだ次の日は決まって体が重い
喜助さんが仕事に行ったあとも布団から動けずにいた
「っ─……」
急に胃が痛みだして、布団で丸くなるように体を縮める
「紫苑さん!」
そこへ丁度私の様子を見にきた勇音さんが駆け寄ってきた
「大丈夫、ゆっくり呼吸をして…」
徐々に落ち着きを取り戻した紫苑を見てホッとした
「ありがと、勇音さん…」
「痛むこと多いですか?」
「ん、まぁまぁ…」
「辛いですね…」
紫苑の薬の補充をしながら、勇音は心配そうに紫苑を見つめる
睡眠薬が減ってる…
でも毎日飲んでいたあの頃と比べると、その減りはかなり遅かった
多分、浦原隊長がどうしても抜けられない時に飲んでいるんだろうな…
「私もう行かなきゃなんですけど、無理せずゆっくりしててくださいね」
「ありがとう…」
…─
数日後─
喜助さんから、今日も遅くなると申し訳なさそうに連絡がきた
仕方ない
そう思っても、やっぱり喜助さんに頼ってしまう自分がいる
それまで嘘みたいに快晴だった空が、徐々に影を増していった
1時間もせずに降りだした雨は次第に強くなり、屋根を打ち付ける雨音が煩い
心臓がザワッと震え上がる
どうしよう…
手が震えてきて、呼吸が大きくなってくる
バリバリバリッ─と空を裂くように鳴り響いた轟音に、紫苑は耳をふさいだ
そうそれは、まるであの日のようだった…
頭の中に嫌でもあの光景が映し出される
琴乃が苦しむ姿…
琴乃と闘う私…
琴乃を刺した感触…
全てが鮮明になって、怖くなって、震えをとめるように布団にくるまった
こわいこわいこわい…
心臓が早くなって呼吸が荒くなり、薬に手を伸ばすも震える手がそれをさせない