第37章 雨が、やんだ気がした
段々と近くなる祭囃子
金魚すくいが上手なリサさん
大きなわたあめを持った白ちゃん
白ちゃんのお世話をしている六車隊長
くじの景品に目を光らせている愛川隊長とローズ隊長
射的を頑張るひよ里さん…
射的…
『あ、紫苑!』
一瞬だった
みんなに紛れて、琴乃がいた気がした
一昨年の夏祭り、平子隊長とひよ里さんと琴乃が射的をしていて
現世でダブルデートをしたとき、駄菓子屋に射的があって
そのどちらにも琴乃がいて、今日もひょっこり顔出してくるんじゃないかって
思って、でもそんなことはなくって
そう思い出したら、体の中から何かが込み上げてきて
お腹が痛くなって
気がついたら、うずくまっていた
「ハァ……ハァ……」
「紫苑、大丈夫?」
すぐに気づいた喜助が紫苑の背中をさする
「大丈夫か?紫苑」
「無理せんでえぇで、少し座っとき」
喜助さんに連れられて近くの岩場に腰かける
「っ……」
「紫苑、薬飲む?」
用意してあげると震える手で薬を受け取り、それを口に含んだ
「辛かった?」
「ちょっと、思い出しちゃって…」
それからどのくらいたっただろう…
何も言わずに、喜助さんはずっと手を握ってくれていた
「紫苑ー、喜助ー!花火始まんでー!」
ひよ里さんが遠くから声をあげる
「行こうか」
建物の屋根に、みんな集まっていた
私と喜助さんが着くのと同時に花火が打ち上がる
「綺麗っスね…」
「そうだね」
琴乃も空のどこからか、この景色を見ているんだろうか…
平子隊長と、来たかっただろうな…
「なァ紫苑」
リサさんが声をかけてくる
「あんたは1人やない。あんたが頼れるのは、浦原さんだけやないで」
「え?」
「ウチらが居るやんか」
「そうやで紫苑」
ひよ里さんも、少し近づいてくる
耳の奥では花火の音が響いている