第37章 雨が、やんだ気がした
その場に座り込んでしまった紫苑は呼吸が短くなり、目からは涙がこぼれ落ちていた。
「大丈夫ですか?!西園寺さん!」
隊員たちが駆け寄ってくる。
ハァッ……ハッ、ハッ、ハッ─
もしかしたらこのまま死んでしまうんじゃないかってくらい苦しい
琴乃もこんな風に苦しかったのかな…
呼吸が短くて、充分な息ができない
気が遠くなる中で何度も琴乃の顔がよぎる
胸を掴む手に力が入る
「どうしました?……紫苑!」
騒ぎを聞き付けた喜助が紫苑を見つけて駆け寄る
「隊長!西園寺さん急に呼吸が荒くなって…」
「過呼吸ですね…」
そう言うと喜助は紫苑の口を塞ぎ、息を送り込む
「わぁ…」
それを見た隊員たちは赤面する
ハッ─ハァッ──ハッ
「大丈夫、ゆっくり息をして…」
何度か繰り返すと落ち着きを取り戻す紫苑
…ごめんなさい
聞こえるか聞こえないか、くらいの細い声で謝る紫苑を抱く腕に無意識に力が入る
「少し休みましょ」
紫苑を抱いた喜助は仮眠室へ向かう
2人が居なくなった執務室は、少しの間静けさが漂っていた
その静けさを破ったのは、今しがた仮眠室に入っていった喜助だった
「た、隊長!西園寺さん大丈夫でした?」
「ちょっと、眠らせました。…何があったんです?」
1人の隊員が書類を持って、喜助に近寄ってくる
「あの、多分これを見てしまったんだと思います」
─東雲琴乃 殉職─
その書類には、そう書いてあった
「そっスか……」
喜助は悲しそうな顔をして、書類を握りしめた
「後、頼みますね」
喜助は背中を向け、再び仮眠室へと戻っていった
「西園寺さん、大丈夫かな…」
「キツイよな…あんなに仲良かった東雲さんを」
…─
「紫苑」
「喜助……さん」
あの日から、紫苑の笑顔を見てない…
無理もない
また、あの笑顔を見せてくれるだろうか…
喜助は紫苑の横に座り、優しく頭を撫でる