第36章 私にもっと、力があったら…
喜助は紫苑をそっと抱きしめた
「叩いたりしてごめん…」
紫苑は静かに首を横に振る
喜助さんに抱きしめられてると、落ち着く
安心する
"私を殺して!"
ふいに頭に甦った琴乃の声
途端に腹部に痛みが走る
「っ……─ハァ……っ」
左手は喜助の腕を力の限り掴み、右手は腹部をおさえる
「紫苑、痛む?」
心配そうな顔で喜助は紫苑を見つめる
「ハァ……ハァ……」
次第に落ち着きを取り戻した紫苑を、ボクはベッドにゆっくりと寝かせた
「そろそろ寝たほうがいいっスよ」
紫苑のお腹をさすりながら、優しい声で眠りを促す
まだ少し肩を上下させながら、潤んだ瞳で紫苑はボクの手をつかんだ
「喜助さん…」
「なぁに?」
少しの沈黙のあと、さっきと同じ言葉が聞こえた
「なんでもない…」
紫苑はふぃと向こうを向く
「なんでもない、は禁止っス」
「大丈夫だから、帰っていいよ」
前にもこんな状況があったっけ…
肩を震わせて、全然大丈夫じゃないくせに
「今更遠慮なんかしなくていいのに」
喜助はまわりこんで紫苑と目線を合わせる
「ボクにできることなら、なんでも言って?」
紫苑はキュと唇を噛み、ボクを見つめた
「私が眠るまで……手、握って……」
「そんなことっスか。全然いいっスよ。あーほらほら泣かなくていいんだから」
ボクの手を握りしめた紫苑は唇を噛み締めて、涙を流した
「眠れなくて、辛かったね…」
次第に紫苑の手の力が抜けていく
静かに寝息をたてはじめたのを確認して、ボクは部屋を出た
「あ、浦原隊長」
「虎徹サン、お疲れ様っス」
暗い廊下を明かりを手に、見回りをしている彼女に会った
「紫苑さん、ちゃんと眠れました?」
「えぇ、ついさっき」
「良かった……浦原隊長のおかげですね。あれからあんまり眠れてなかったみたいですから」
「そっスか…」