第36章 私にもっと、力があったら…
前ほど衝動的に死にたいと思うことはなくなった
それは、琴乃がどこに行ったか分からないから…
死ねば琴乃に会えると思った
でも琴乃の体は、光に包まれて消えたと聞いた
一体どこへ行ってしまったの?
私を置いていかないで…
"ボクを置いていかないで……ね"
私は伝令神機を手に取っていた
呼び出し音が鳴る
2回目の音が鳴った時に、咄嗟に呼び出しをやめた
こんな時間…きっと寝ているか、仕事をしているよね
私は喜助さんに甘えすぎている
強くなりたいって思ったあの日から、ちっとも強くなれてない
ピピピピピ─
その時、伝令神機のモニター画面に喜助さんの名前が光った
私はそっと耳元に伝令神機をあてる
「紫苑?どうしました?」
大好きな喜助さんの声
落ち着く声
少し眠そうな、疲れているような声
「ごめん、なんでもない…」
次には通話を切っていた
何やってるんだろ私は
こんなことして、迷惑なだけなのに
ピピピピピピ─
再びモニターに表示される名前
咄嗟に切った
そして再び鳴り出す伝令神機
電源を切って、私は布団を被った
呆れているかもしれない
真夜中に電話をかけて、やっぱりなんでもないなんて
勘弁してくださいよ…とか思ってるかもしれない
眠れない
眠るのが怖い
何も考えないようにして、でも目が閉じれなくて、どれくらい経っただろう
窓の外に目をやると綺麗な満月だった
喜助さんの髪の色だ…
それを、見ているとなんだか喜助さんが近くにいるようで、少し落ち着いた
一粒だけ落ちた涙をぬぐう
「泣いてるんスか」
あれ、なんで
電話無視したはずなのに、喜助さんの声がする
「なんでもないって言ったじゃん…」
振り返らずに答えるとゆっくりと近づいてくる足音
「なんでもない人が、あんな震えた声で電話かけてこないっスよ」
「…………」
また一粒涙がこぼれる
それを正面に来た喜助の指が拭う
「…お仕事してたんでしょ」
「仕事より紫苑のほうが大事っスよ。眠れなかった?」
「…ちょっと声聞きたくなっただけ」
"その分抱きしめてやれ"