第36章 私にもっと、力があったら…
「私が琴乃を殺したの…」
「紫苑…」
「私が殺した…!私なんかが…私なんかが生きてちゃいけない…私は琴乃を……っ!」
突如、胃のあたりを押さえて苦しむ紫苑
「ボクは紫苑に生きていて欲しい」
紫苑を優しい暖かい霊圧で包み込む
「琴乃サンはきっと、そんなこと望んでないよ」
胃の痛みが弱まったのか、力の入っていた体が少しずつ解放されていく
紫苑の目から絶え間なく流れ続ける涙
必死に絞り出した震える声
「私っ、何もできなかったっ!」
「そんなことないっスよ。紫苑のおかげで、琴乃サンは虚に食べられずに済んだんスから」
「でもっ…でも!」
「生きる理由が必要なら、ボクを理由にすればいい」
「…え」
「ボクを置いていかないで……ね」
しばらく沈黙したあと紫苑は、喜助の袖をぎゅっと握った
「…私、生きて……いても、いいの?」
いいんスよ
再び大粒の涙を流す紫苑の背中を優しく叩き続けた
…─
「真子!ちょっと来いや」
次の日、未だ琴乃を失った喪失感に蝕まれている俺は、それでも体にムチを打って仕事に出た
もちろん仕事なんて手につくわけもなく、頭に浮かぶんはアイツの笑った顔、照れた顔、怒った顔…
今だって、ノックもせんと隊首室の扉開けよって「真子ー!」なんて元気な声が聞こえそうや…
ホンマにアイツが居ないなんて信じられへん…
こんなときだからか惣右介も何も言ってこんかった
そんなときや
ひよ里がやってきたんは
「なんやねん、ひよ里…」
「えぇから来い!」
半ば無理矢理連れていかれるようにして、着いたその先は技術開発局だった
「俺はこないな所に用ないで…」
「こっちや」
パソコンがいくつか置いてある部屋に通される
そのうちのひとつをひよ里がカチャカチャと弄る
「これはな、白玉が撒いとった録霊蟲が録画した映像や」
「録霊蟲?なんやそれ」
「虫みたァに動きよって、その場の映像と音声を記録するもんや」
その時パソコンのモニターに映像が映し出される