第36章 私にもっと、力があったら…
「あ、の……窓から光が……」
「光やと?!」
「それで、その光に包まれたと思ったら……体が消えていて…」
「そんな訳ないやろ!琴乃どこへやったんや!答えろや!」
平子の剣幕に怯える隊士を隠すように卯ノ花が立ちふさがる
「嘘ではありません。私も原因は分かりませんが、東雲さんの体が消えてしまったことは、残念ながら事実です」
「なんでや……琴乃に会わせろや……」
琴乃が寝ていたはずのベッドのシーツを握りしめながら、ぶつけようのない怒りと悲しみを必死に圧し殺していた
「平子サン…」
平子がここまで取り乱す姿は、紫苑が喘息で生死をさ迷っていた時以来だった
いや、それ以上かもしれない
結局その日、平子サンを藍染サンが迎えに来て肩を担がれながら帰っていった
ボクは紫苑の部屋に戻り、紫苑が目を開けるのを待った
『隊長……紫苑は?』
こんなとき、いつも紫苑を心配する声が聞こえてくる
生まれた時から紫苑と一緒で、家族同然だった琴乃サン
ボクよりもきっと紫苑のことを知っていて、誰よりも大事にしてきた
「なかなか、キツイっスね…」
紫苑が次目を覚ましたら…
その精神状態はどうなっているんだろうか
唯一の家族を失ってしまった紫苑は、家族を手にかけてしまった紫苑は、どうなってしまうんだろうか…
…─
カチャリ─
嫌な金属音で僅かに目を開けた
紫苑の病室で寝てしまっていたのか…
さすがの卯ノ花隊長も今回ばかりは、消灯時間が~とは言わないでくれているんだろう
紫苑が目を覚ましたのか?と顔をあげるとそこには心臓をヒヤリとさせる光景が写っていた
「何考えてるんスか!!」
咄嗟に紫苑の握っていた斬魄刀を叩き落として、彼女の頬を叩いた
紫苑を叩いたのは…初めてだった
顔をあげたそこには、紫苑が自分の首に斬魄刀を押し当てている姿が写った
叩かれた頬を掌で押さえながら、下を向いたままの紫苑