第5章 気になる人って…
紫苑の胸の鼓動は速度を増す
少しずつ喜助の顔が近づいてくる
額がくっつくまであと数センチ…
「…くしゅん!」
ピタっと喜助の動きがとまる
二人の間に数秒の沈黙が流れる
「紫苑サン、もしかして寒い?」
「あ、いえちょっと冷えただけなので…」
その時肩にふわっと白いものがかかった
「い、いけません!こんな大事なもの」
紫苑の肩には喜助の隊長羽織がかかっていた
「いいんですよ、それ着てるとちょっと動きづらいし」
返そうとした紫苑を手で制する
紫苑は申し訳なさと、ふわっと香ってくる喜助の匂いにまた少し顔が赤くなる
「ありがとうございます…」
俯きがちに言う紫苑を、喜助はどうにも抱き締めたくなった
「なんならボクがあっためてあげ……」
「喜助ーー!!」
いきなり横からのキックが喜助に直撃する
「痛いじゃないっスか~ひよ里サン」
「今何言おうとしてたんや!」
「なんならボクがあっためて…」
「言わんでええ!」
と、二回目のキックが綺麗に決まる
「紫苑、喜助になんかされたらウチに言うんやで!」
「は、はい」
ひよ里の後ろで喜助はちぇーと唇を尖らしている
「紫苑、寒いんやったら仮眠室で寝とき?」
「でもまだ就業時間ですし、大分休んだので私も掃除に戻り…」
「「ダメ!」」
二人の声が綺麗に重なる
その勢いに紫苑は驚く
「す、すみません」
「時間になったら起こしますから、横になってください。熱がでたら大変だ」
そう言って仮眠室に案内された
やっぱり、と羽織を返そうとしたが、冷えるからかけてていいっスよと断られた
「本当に寝ちゃっていいのかなぁ」
としばらく座って考えていたが、確かに熱を出したら仕事どころではなくなってしまう、と布団に横になった
「隊長の匂い…」
思わずあの日、喜助が隣に寝ていた日のことを思い出してしまう
「いい匂いだなぁ…」
何を言ってるんだ自分は、と紫苑は1人で恥ずかしくなり羽織で顔を隠す
キィ…─
とまた扉が開く音がする
「あれ、紫苑ちゃん?どうしたの?」
「沙也加さん!」