第36章 私にもっと、力があったら…
「紫苑に出会えて……西園寺家で、過ご……せて幸せだった……よ」
「最期みたいな事言わないでよ…」
「あぁ、でも……ひとつだけ……後悔……」
私は重みに耐えられず琴乃を突き刺したまま、その場に座り込んだ
「こんな…、ことになるっ……なら、真子に、ちゃんと……ハァ、好きって…言っとけば……よかった」
「バカっ!言うんだよ…ちゃんと、自分で!平子隊長に…言わなきゃ!」
「ごめん……紫苑、も……無理そ……」
琴乃は最期の力を振り絞って、刀から自身を抜いた
そして、その場に倒れこんだ
「琴乃!琴乃!!」
「ハァ……私の分まで……生きてね……」
「やだっ!やだよ琴乃!逝かないで……」
掴んだ琴乃の手は雨のせいなのか冷たくて、力なくだらりとしてる
嫌な雷の轟音が琴乃の言葉を打ち消していく
「ありがとう……紫苑、だい……す……き」
それが琴乃の最期の言葉だった
琴乃は、笑っていた
私の手から、琴乃の手が滑り落ちる
「ねぇ、琴乃……やだよ……逝かないで……私を置いて、逝かないでよ……」
涙で琴乃の姿が見えない
琴乃の声が聞こえないのはきっと、雷のせいだろう
琴乃が動かないのはきっと、寝てるだけだろう
そう思ってなんとか自分を保っていた
無力な自分を…
…─
「平子サン、早いですね」
「琴乃は?!危ないってどういうことや」
「紫苑が先行ってるんやろ?」
「琴乃サンの様子を見に行った紫苑の心拍数が上がってる…この先です」
2人の元についた喜助、平子、ひよ里の3人が見たのは
「紫苑!」
「琴乃!」
紫苑が琴乃に、斬魄刀を突き立てているところだった
そして刀から自身を抜いた琴乃はその場に倒れ込む
3人が2人の元へたどり着いた時には、もう琴乃の息はなかった
気を失い倒れ込む紫苑を喜助が支え、琴乃を平子が抱き上げた