第36章 私にもっと、力があったら…
「なんだ、結局届かなかったのか…てことはほんとに紫苑に助けられたわ。ありがと」
素直に感謝されると、なんだか気恥ずかしい
とりあえず虚は倒したし、一度隊舎に戻って喜助さんにも報告しよう
「帰ろう、琴乃」
そう振り返った先の琴乃は、どこか一点を見つめて動かなかった
「琴乃?」
様子がおかしい
そう思って近づこうとした次の瞬間…
琴乃の口から、切れた皮膚から、赤黒い血が吹き出た
そのまま琴乃はうつ伏せに倒れてしまった
「琴乃!!!!」
…─
「喜助さん、私やっぱり様子見てくる」
「ボクも行くっス」
「喜助さんはまだお仕事残ってるんでしょ?様子見てくるだけだから」
それじゃ、と言って瞬歩で去る紫苑を眺めていた
この時ボクが一緒に行っていたら、何か変わっていたのだろうか…
チラチラと脳裏に紫苑と琴乃サンの顔が浮かんで、あまり仕事もはかどらなかった
そんなとき、紫苑に埋め込んだ発信器が、紫苑の脈が早くなったのを感知した
「ひよ里サン、平子サンに連絡を!琴乃サンが危ないかもしれません!」
「なんやて…!」
紫苑の大きな霊圧の乱れ、琴乃サンの弱々しい霊圧…ボクは隊舎を飛び出した
…─
「琴乃!!!!」
すぐに琴乃に駆け寄る
強い雨のせいで次々と流れ落ちる血
苦しそうに顔をしかめる琴乃
「ごめん…なんか、毒…かな…あったみたい…」
うつ伏せに倒れた琴乃の背中には大きな傷があった
「琴乃っ、待ってて今助けるから!」
紫苑は琴乃の体に回道を施していく
「ゲホッ…うっあ…」
「どうして…」
体の傷は消えていくのに、琴乃の顔色はどんどん悪くなっていく
「ねぇ、背中……なんか痒い……んだけど」
「痒い?」
血で隠れてよく見えなかった傷口が、雨で流されてハッキリと写る
そこにはあの分身の爪の欠片のようなものが、奥深く刺さったままだった
「待って、今取って……っ!」