第35章 手出したら命無いっスよ
沙也加さんみたいにできたかなぁ…
って、また比べちゃった…
琴乃はいつの間にか戻ってきていて、会場の端にならんでいる
「はよせぇや喜助!」
「ちょ、待ってくださいよ~ひよ里サン」
ひよ里に引っ張られる形で入ってきた喜助さんは、今年も相変わらず締まらない顔をしていた
そんな顔も、好きだったりするんだけど…
って私こんなときに何をっ
進行進行っと…
「お待たせしました。隊長と副隊長からご挨拶お願いしますね」
喜助さんが先に挨拶を始める
「なァ紫苑…」
「なんですかひよ里さん?」
隊長の喜助を横目に、ひよ里が近づいてきてコソッと耳元で話す
「喜助またアレやるんやないか?」
「アレって?」
ひよ里さんが顎で喜助さんのほうを指す
私はいまいちピンとこなくて喜助さんに目を向ける
「あー、あとですね、一番重要なこと言っときますね」
その言葉に会場はピリッと空気が引き締まる
「そこにいる五席の西園寺紫苑は、ボ ク の 彼女なんで、絶対手出さないでくださいね」
会場全体が、え、という空気に包まれる
「手出したら命ないっスよ」
その目が本気で殺気を放っているから、凍りつく会場
(まじかよ…)
(俺やっぱ十三番隊に行きたかった…)
(俺の女神が…)
「以上っス」
喜助さんが壇を降りたにも関わらず、私からは言葉のひとつも発されなかった
「紫苑、紫苑!意識あるか?」
「え!あ、ごめんなさい!」
顔を真っ赤にして、顔を隠すように下を向き進行を続ける
もぉー喜助さんたらみんなの前でっ!!
またってことは去年もやったんだよね?
去年は私、貧血で席を外していたし…
喜助さんは満足げにニコニコしながら手を振って会場を出ていく
あとで文句言ってやるんだから!
でもそのお陰で喜助さんを狙う女子もちょっとは減ったかな…
その後入隊の儀は滞りなく終了し、新入隊員たちは午前で帰宅したがまだ何人か残っていた
「かっこ良かったねー浦原隊長」
「もぅ!すっごい恥ずかしかったんだから!」
さっきから何回も琴乃にからかわれる
明日から新入隊員たちにどんな顔して会えばいいのやら…