第4章 恋人はいますか?
こんなことをされたらいつもの紫苑なら、子供扱いしないで!と怒るはず
でも今の紫苑は怒るどころか、目を少し伏せてちょっとうつむき、顔を赤らめて何も言えずにいる
まるで、本当に恋をしているような、姿だった
「ところで琴乃サン、聞きたいことがある…」
「だー!だめですだめです!」
「なんの話ですか?」
紫苑の努力虚しく、予想通りの質問が喜助から琴乃にかけられた
「紫苑サンの気になる人って知ってます?」
紫苑は喜助を制するのを諦め、琴乃を見つめながらダメと首を横にふっている
「知ってますよ」
「琴乃!」
「けど、教えませんよ」
琴乃はニッコリとした笑顔で拒否する
「残念、紫苑サン教えてくださいよ、一緒に寝た仲じゃないっスか~」
「たっ、隊長ー!!」
紫苑は喜助の口を塞ごうと手を伸ばすが、背が高い喜助には到底届かず、背伸びをしてピョンピョンはねている
その時着地の足がもつれて紫苑はバランスを崩してしまう
それを抱き止めようとした喜助の羽織を咄嗟に掴む
「あ!」
「ちょ、紫苑…サ…!」
ドサドサッと音をたてて2人は倒れてしまった
背中には床
目の前には天井が…あるはずだった
「たい…ちょ…」
目の前には隊長の顔があった
「紫苑サン……」
端から見たら私が隊長に、押し倒されているように見える
隊長はじっと私を見つめてる
胸が、ドキドキしてきた
あれ、ちょっと隊長の顔近づいてきてない?
え、ちょ…待ってください…
心の準備が…
「もーイチャつくなら人の居ないところでやってください!」
琴乃の声に、ハッとなった私たちはすぐに離れた
「い、イチャついてなんか!」
「残念。もうちょっとだったんスけどねぇ」
「隊長!!」
カンカンカンカンカン─
そこで午後の始業を伝える鐘が鳴る
「し、失礼します!」
二人はまた走り去っていった
二人の曲がった角とは別の角に身をひそめて、一部始終を見ていた者は爪を噛みながら体を震わせていた
「……ムカつく」
その声は誰にも聞こえなかった