第34章 お仕置きっス
「デレてない!」
「その調子で、俺ンこと好きや言うてみぃ?」
「……す」
「す?」
「……す……す…………すき焼き!!…………食べたいなって……アハハ」
てんてんてんと沈黙が2人を横切る
「あーやっぱ恥ずかしくて言えない!」
琴乃の腕を掴むとグッと自分のほうに引き寄せる
よろけて体重を預けた琴乃の耳元で囁く
「俺は好きやで、琴乃」
いつもより低い声で、甘い愛を囁いて、脳にガンガン響いてくる
真子の声が木霊して、頭が支配される
ニィと面白そうに、試してるかのように笑う顔
「や、む、無理!こっち見ないで!」
「なかなか慣れへんなぁ、琴乃は。まァそんくらいのがエェか。気長に待つわ」
「ご、ごめん…」
「エェよ。好きなんは充分伝わっとるしな」
琴乃の髪をくしゃっと撫でる大きな手が暖かくて、心地よい
もっと素直になれたらいいのに…
…─
「喜助さん!喜助さん!」
「はいな」
「あそこのお店かわいい!」
「じゃ、行きましょ」
「喜助さん!あそこいきたい!」
「はいはい」
「喜助さん!何か食べよう!」
「甘いモノがいいっスか?」
「わっふる!」
「わっふるっスか?」
「こないだ琴乃に教えてもらったの!」
あー、幸せっス…
紫苑にあの丸薬を飲ませて現世にきた
矢絣の袴姿がめちゃくちゃ可愛くて、お店を回りたいって言うから、今振り回されてるっス
あんなに楽しそうにはしゃいで、なんだってあんなに可愛いんスかね…
もっと振り回してほしいっス
カシャッ─
「え?写真?」
「あんまり可愛いんで、撮っちゃいました♪」
「は、恥ずかしいよ!」
カメラを奪い喜助にシャッターを向ける
「仕返しっ」
どうせなら…そう言って紫苑の腕を引く
「ん?」
「一緒に撮りましょ♪」
「う、うん…っ」
カメラを自分たちに向けて、背景には大正の街並み
いつもと違う雰囲気で、いつもと違う服装に酔う