第33章 喜助さんの話しないで
「紫苑は?」
「起きてシャワー浴びにいきました。大分良くなったみたいっス」
「そっかよかった、じゃあ失礼します」
足早に去って行く琴乃サンを見送って、ボクは隊首室へ入る
「琴乃ーおるかー?迎え来たでー」
「そんな大きな声で呼ぶと怒られますよ、平子サン」
やれやれといった感じで答える喜助
「なんや喜助かいな。琴乃はどこや?」
キョロキョロと辺りを見渡すも、隊員の姿はまばらで琴乃は居なそうだ
「書類配り忘れてたってついさっき出ていきましたよ」
「はァーせっかく人が迎えに来てやっとんのに」
「明日でいいって言ったんスけどね。ボクも紫苑待ちなんでよかったらお茶でもどうスか?」
隊首室の端に申し訳なく置かれた応接セットに腰をかける
「なんや落ち着かん部屋やなぁ」
「慣れっスよ慣れ」
そんなん慣れんの局員だけとちゃうか?
「紫苑の具合は?」
「もう大丈夫そうっス」
「そらよかったな」
お茶を啜ると、少しの沈黙のあと平子が口を開く
「なァ、喜助」
「はい、なんでしょ」
「紫苑に妬かせたいとか思うたことあるか?」
プクプクと泡をたてる液体カプセルを眺める
「妬いてほしいんスか?琴乃サンに」
「エェから質問に答えろや」
図星だな、とジトッと平子を見る
「無いって言ったら嘘になりますけど、わざわざそういうことはしませんよ」
「なんでや?」
「紫苑の体に障るからっスね」
あの子体に出やすいですから
なるほど、と納得したものの湯飲みの中のお茶をクルクルとまわす平子
「琴乃あんまし妬いてくれへんねん」
「我慢してるんじゃないスか?紫苑も最初そうだったから」
「なんや今は違うんか?」
「妬いたり、イライラしたり、そういうのは全部受け止めるからぶつけてって言ってあるんス。じゃないと紫苑倒れちゃいますから。まぁそれでもまだ、多少我慢してる部分はあると思いますけど」