第33章 喜助さんの話しないで
「あ、真子」
仮眠室の扉の前で、右往左往してると手に氷水を持った琴乃が話しかけてきた
「おー琴乃!丁度良かった、先入ってくれや」
「別にいいけどなんで?」
平子はポリポリと頭をかく
「さっきひよ里とここでやり合うてな、喜助にどやされたばっかりなんや」
琴乃はノックしながら真子に返事をする
「そりゃ怒られるよ。隊長紫苑には過保護だから」
しばらく待っても返事がないのを不思議に思い、そっと扉を開ける
「寝とるんとちゃう?」
「隊長いるはずなんだけど…」
寝てるかもしれないと、ゆっくりと衝立の向こうに歩を進める
その後ろを平子も着いていく
「あ」
琴乃が小さく声を漏らして立ち止まる、その後ろから平子がなんや、と顔を出す
「幸せそうな顔して寝とるなァ、喜助」
「起こさないようにしよ」
そこには1つの布団に、薬が効いたのかいくらか顔色のよくなった紫苑と、その紫苑の腰に手をまわすように絡み付いてスヤスヤと寝息をたてる喜助がいた
琴乃は静かに紫苑の手拭いを交換すると、そっと仮眠室を後にした
「隊長のあんな無防備な顔初めて見た」
「俺は琴乃ちゃんの無防備な顔も見てみたいけどなァ」
「なっ、何言って……っ」
びっくりして真子の顔を見ると、唇に柔らかい感触が触れた
触れるくらいの優しいキス
「今日俺の部屋来ぉへん?」
耳元でいつもより低い声が、脳内を響き渡る
一気に心臓が早くなって、咄嗟に離れた
「エェやろ?」
ニィと口角をあげて琴乃の頬に手を添える
いつもよりヒヤリと感じるのは、私の頬が熱くなってるからだろうか
「あ……ぇと」
「嫌なら今言いや、無理矢理とか絶対せぇへんから。何も言わへんなら…期待してまうで」
「ゃ……じゃない」
俯きながら小さく答えた琴乃の声は、確かに平子に届いていた
羽織をキュと握って……なんや可愛えぇやんけ
「好きやで」
ずっと早かった鼓動が、今度はバクンと音をたてて波打った
私も好き
心の中でだったら何度でも素直に言えるのに、喉元まで出かかって、いつもつっかえる