第33章 喜助さんの話しないで
意外な一面を見た紫苑は少しはにかんで嬉しそうな顔をしている
「紫苑のことになるといつも余裕ないっスよ」
「だと、いいんだけどな…」
本当なんスけどねぇ…
おかゆを食べ終えたのを確認して喜助は薬を渡す
「今日はできる限り一緒にいますよ」
「そんなっ!仕事もあるんだから大丈夫だよ!」
「紫苑にさみしい思いさせちゃったから…ね」
ちょっと待っててと言い残して喜助は部屋を出た
隣の隊首室で、なにやらゴソゴソしているらしい
戻ってきた喜助は大量の荷物をもって立っていた
「よいしょっと…」
喜助は紫苑の近くに机と座布団、書類やら諸々設置し始めた
「なに…してるの?」
紫苑が声をかけたところで喜助はようやく手をとめた
「今日はここで仕事しますよン♪」
ルンルン気分の喜助に紫苑は戸惑っていた
「集中できないでしょ」
「いいの。今日は溜まってた細かい仕事やることにしましたから。それとも何か、ボクが傍にいたら嫌なんスか?」
紫苑の顔にあと数cmというところまで近づいて紫苑を見つめながら問う
熱のせいで赤く火照った頬が更に熱を帯びた気がする
「い、嫌じゃないです」
「ですよねン♪さっ、仕事しましょ」
喜助はくるっとご機嫌になり机に向かい始めた
「何か欲しいものとかあったら声かけてくださいね」
「ありがとう、喜助さん…」
喜助はニッコリ笑って目の前の仕事にとりかかった
紫苑はそんな喜助をしばらく見つめたあと、ゆっくりと布団に横になった
強くて、優しくて、かっこよくて、頼りがいがあって、弱くて泣き虫な私を受け止めてくれる…
こんな素敵な人が本当にこんな私を好いてくれてるのかな…
もしかしたら全部全部長い夢なんじゃないかとさえ思う
夢じゃ、なかったらいいな…
「紫苑?」
ふと喜助が紫苑に目線を送る
「寝ちゃったんスね」
喜助は布団を肩の位置までかけ直し、紫苑の額に張り付いた前髪をそっと流す
コンコン─
「紫苑ー?いるー?」
いつも返事をしなくたって我が物顔で入ってくる琴乃サンが、珍しく伺いをたてていた