第33章 喜助さんの話しないで
駄目だ、集中しなければ…
この実験体から目を離すわけにはいかない
そうすること6日…
一向に兆しが見えない…
もう少し経過観察するか、それとも一旦中断するべきか
その時実験体に僅かな変化が見えた
喜助は急いであちこちのボタンを叩き始めた
…─
「なんや喜助まだ出てけぇへんのかいな」
「ひよ里さんはお手伝いしないんですか?」
「あんなん手伝えるン、白玉か阿近くらいやろ」
もう10日くらい経つんちゃうか?
紫苑は日に日に目の下のクマが濃くなっとるし
明らかに覇気がなくなっとる
「紫苑はほんと、隊長がいないと死んじゃうんじゃないの?」
「もぅ、喜助さんの話しないで…」
会いたくなって辛いだけだから…
勤務時間中は頑張って仕事に集中してる
八席が恋人に会えなくて仕事が手に手につかないなんて、下に示しがつかない
でも休憩中と、仕事が終わったあとはプツンと充電が切れる
喜助さん不足…
…─
「朝っスか…」
何日ぶりかの太陽の光が眩しい
昼夜関係なく研究に没頭していた喜助が、漸く一時終えて、局から隊首室に戻ってきた頃にはもう始業の鐘が鳴りそうな時間だった
あー早く紫苑に会いたいっス…
隊首室の扉をあけた喜助は目を丸くした
窓際のソファに横になり寝息をたてているのは紫苑だ
10日振りに会う愛しい彼女
会いたくて会いたくて仕方なかった紫苑
だけど、遅刻なんかしたことのない彼女がこんな時間まで寝ているのは凄く珍しい
しかも機械だらけの隊首室で、何も掛けずに
どうしてまた…
喜助は紫苑の横に座ると彼女の異変に気づいた
呼吸は浅く、白い頬はほんのり赤く、体も見れば少し震えている気がする
喜助は紫苑の頬に掌を当てた
熱い…
「ん…」
紫苑はそのひんやりとした感触に思わず身をよじらせる
「……喜助さん…がいる……夢……かぁ」
その後窓の外に目をやると、外はもうすっかり朝日がのぼっていた
「え!いけない!こんな時間!」