第33章 喜助さんの話しないで
喜助さんは、それと……と言ってまた違うトレーを出してきた
…─
「ホンマに付けたんか、あれ」
平子が呆れたような顔で奥の2人をみる
「紫苑、なんか嬉しそう」
微笑み合う2人をみて、琴乃も少し口元が緩む
「理解できへんわ、阿近行くで。白玉が呼んどる」
ひよ里は阿近を引き連れて研究室を離れる
「ねぇ真子、あの2人にとっては、あれが幸せなのかな」
「せやけどなァ、やっぱり分からんわ」
「…2人が良いなら良いか」
そうかァ?とポリポリ頭をかきながら琴乃とその場を離れる
「とろこで真子、何しに来たの?」
「ん……まァな」
「え、なに?」
「だからアレや」
「いや、アレじゃ分かんないんだけど」
平子ははぁと小さくため息をついて、明後日のほうを向く
「琴乃に会いにきただけや」
思ってもいない返事に琴乃は歩くのをやめた
ん?と不思議に思ったら平子が振り返る
「て、照れるじゃんバカッ」
「照れた顔もかーわいーでぇ?」
少し戻ってきて、くしゃっと私の頭を撫でる
ほら行くで、と差し出された手
「誰かに見られたら恥ずかしいもん」
そう言ってその手を取らずに歩きだす
「そうかい」
ツンデレもなかなか厄介やな
いつか琴乃から繋がせたるけどなァ
琴乃から視線をそらしてニヤニヤしてるのは、秘密
…─
技術開発局─
「これって…」
見覚えのある丸薬
桃色にハート…なんか葉っぱみたいなのも書いてある
「遅くなってごめんね。その葉っぱはタイムだよ」
「タイムって…前喜助さんがお土産にくれたあのタイムティー?」
「うん、あれには炎症を治める効果があるから試しに混ぜてみたんス。副作用もほとんどなくなってるはずっスよ」
これで現世に行けるようになるのかな…
「本当に副作用が出ないか確かめて貰いたいんスけど」
飲んでいい?と聞くとどうぞと返事がきて、私はそれを口に含んだ
ほんのり甘い味の後に少しだけ爽やかな香りが鼻を通る
「それが大丈夫だったら、現世に行ってみましょ」
「ほ、本当に?一緒に行ける?」
「モチロンっスよ」