第4章 恋人はいますか?
「はいはい」
「楽しそうにしないでください!」
また喜助はニヤニヤ笑って
「じゃあボクそろそろ行きますね。紫苑サンは午後からっスよね。ゆっくり休んでくださいね」
いまだ壁に背をつけている紫苑のところまで近づき、頭をポンポンと優しく叩く
紫苑は胸がキュンとするのを感じた
「あ、でも遅刻しちゃダメっスよ」
「お、お気をつけて…っ」
喜助が出ていったのを確認すると、紫苑はそのまま座り込んだ
うるさかった心臓が少しは落ち着いたが、まだ鼓動が早い
「私、ドキドキしてる…」
自分の胸に両手をおき、さっきまでこの部屋で起こっていたことを思い返すと、また再び頬が赤くなる
"それが恋なんスかね"
不意に思い出した言葉
そうだ、昨日浦原隊長に言われた
恋
恋
ドキドキしたら恋ですか?
目をつぶってもさっきのことで頭がいっぱいになる
紫苑は振り払うように頭を振って、再び眠りにつこうとした
眠れない…
…─
陽が高くなり始めた頃、紫苑の部屋の前の廊下から声をかける者がいた
「紫苑ー?起きてるー?」
「起きてるよ」
カラカラと襖を開けて入ってきたのは琴乃だった
「よかった。昨日ちゃんと、帰れたかなって思って」
「うん、隊長が送ってくれたから」
紫苑とは生まれた時から一緒にいる
だから紫苑の小さな変化には、すぐ気付く自信がある
「隊長となんかあった?」
「ななな、なんにもないよ!」
紫苑は急に飛び起きると、頭の中に朝のことが一気に流れてくる
「ふーん…」
琴乃はニヤリと細い目で紫苑を見つめる
「何があったの?」
「何もないって!」
「言わないとお仕置きするよ」
「…ぅ」
琴乃のお仕置きは絶対にやだ
「実は…」
その数秒後…
「えぇぇー!浦原隊長と寝たぁぁ?!」
「琴乃声大きい!」
紫苑は咄嗟に琴乃の口を手でふさぐ
「ごめんごめん」
「寝たっていうか…隊長が言うには私が行かないでって言ったらしいんだけど…」