第32章 もっと喜助さんが欲しい
紫苑を追いかけてきた喜助は、適当なところで座り込む紫苑の隣に座った
「喜助さん」
「はい」
「なんで尸魂界には海がないのかな」
「紫苑…」
「ごめん、急に…こんなこと言ったってしょうがないよね」
無理に笑う紫苑に心が締め付けられる
「海…行きたいんスか?」
「…行きたくないって言ったら嘘になるけど」
遠くを見つめる紫苑の瞳が微かに震える
行きたいっスよね…
平子サンと琴乃サンが楽しそうに海の話してて、辛かったっスよね
どうにかしてあげられないっスかね…
その時喜助はハッと閃いた
「紫苑、ボクに任せて」
「へ?」
「海、連れてってあげる」
紫苑は訳が分からずポカンと口を開ける
少し時間かかるけど、と言って喜助さんは笑った
だって海は現世にしかないし、現世にはもちろん行けないし
一体どうやって私を海に連れていくというのか…
気になりつつも、ワクワクしながら待った
…─
琴乃からは申し訳なさそうに謝られた
「気にしてないから、平子隊長と行ってきなね」
私を気にして、海に行くことを辞めようとしていたみたい
「でも…」
「私に気を使ってたらなんにもできないよ。それに…」
「それに?」
喜助さんの言っていたことを思い出す
「よくわかんないんだけど、喜助さんが海に連れていってくれるって言ってたし」
「え?海に?どうやって?」
「私も分からないし、想像もできないんだよねー」
「まぁ隊長ならなんとかできちゃいそうだよね!」
それから数日…─
久しぶりに合ったお互いの休み
というよりは多分喜助さんが無理矢理合わせたんだろうけど
起きて朝ごはんを食べて、片付けてこれからどうするって話しをしようとした矢先、目の前が真っ暗になった
「え、喜助さん?」
後頭部で手際よくキュキュと音がする
目隠しされてるとすぐにわかった
「ちょ、何して…」
「良いところに連れてってあげますから、大人しくしててくださいね」