第31章 平子サンとは何を話したんスか?
そんなつもりで言ったんじゃない、と言いたげな細い目が喜助をジトリと見つめる
「しゃァから紫苑のことは諦める…と言いたいんやけど、そんな簡単には忘れられへんねん」
「いいっスよ、ゆっくりで」
「なんやお前、やけに優しいやんけ、気ッ色悪ゥ…」
寒なってきた…
と平子は自分の腕をさする
「ボクの彼女は簡単には忘れられないくらい、いい女ってことっスから」
「なんか腹立ってきたわ…」
「まぁまぁ、平子サンは新しい恋でも探してくださいな。失恋特効薬っていうし」
新しい恋……なァ
"私が忘れさせますっ"
「ぶッ」
思わず酒が飛び出たところを冷静に拭く
「もしかして、もうそういう相手が居るとか…?」
「この話はまた今度や…」
「うわ、めっちゃ気になるんスけど…」
「なんでお前と恋バナせなアカンねん」
「いいじゃないっスかー減るもんじゃないし。相談のりますよ?」
その時喜助の伝令神機が鳴る
ピピピピピピ─
「紫苑?どうしました?」
珍しい紫苑からの着信だった
「あ、喜助さん。今大丈夫?」
「モチロンっスよ」
「琴乃と飲んでたんだけどね、珍しく琴乃が先に潰れちゃって…送っていきたいんだけど、全然動かなくて…よかったら来てもらえないかな?」
「え?琴乃サンが?」
カタンっと音をたてて、平子の手から御猪口が落ちる
その様子に喜助はびっくりしたものの、何かを察したようにニヤリと笑った
「……はい、すぐ行きますね」
プチっと通話を終了すると、眉間にシワを寄せた平子の顔が目に入る
「さ、行きますよ平子サン」
「ちょォ待てや!何があったんや」
「付いてきたら分かりますよン♪」
「はァ?」
まさか負傷とかしてへんやろな、琴乃…
喜助のよォ分からん言葉にもイライラするし
なんやねん
今日の今日やのに、琴乃の名前聞いただけで胸がざわめく