第4章 恋人はいますか?
ボクの心は揺れに揺れていた
大きな声では言えないが、女の人の気持ちには割りとすぐに応えていたし、何人もの人と同じ布団で寝てきた
だけどなぜだろう…
彼女には、同じことができない
理性を必死に抑えて、早くこの場を去りたかった
だけど、紫苑サンの言葉が胸に刺さる
"1人で寝るのは寂しいの"
紫苑サンは確か、霊術院の寮に入っていたから、お父様と一緒に寝ていたのはきっと小さい頃
その頃の夢を見ているんだろうか
だけど、きっと家族が、お父様が亡くなってから、思い出しては寂しい夜を過ごしてきたんだろう
酔ったり、寝ぼけていたりすると本音が出ると良く言う
それが紫苑サンの本音だとしたら、そんな紫苑サンを置いて、ボクは帰れるのか
ボクのことをお父様だと思っているとしたら、ボクが少しでも心の穴埋めになるのなら…
それともただ、此処に居ることを正当化したいだけなのか
考えを巡らせていたら、いつのまにか、あれだけ潤んだ顔を見せた本人は、何事もなかったかのようにスヤスヤと眠りについていた
喜助の袖を掴んだまま…
「…何されても知りませんからね」
喜助は諦めて、自分の理性ととことん闘うことを決めた
…─
小鳥のさえずりで目が覚めた
夢を見た気がする…
お父様が、一緒に寝てくれる夢…
そんなこと、あるわけないのに
うっすら目を開けるとまだ空は白んでいて、早朝だと気づかされる
ぼんやりした目が少しはっきりしてきて、隣に誰か寝ていることに気づく
あれ?
「ん…起きたんスか、紫苑サン。おはよ」
そう言って喜助は紫苑の頭をなでる
「………」
「まだ寝ぼけてるんスね」
「……ゆめ…?」
もう一度目を閉じようとしている紫苑を、喜助が制する
「夢じゃないっスよ」
「お父……様…?」
「残念ながら、お父様じゃないっスけど」
段々と視界がはっきりしてきた紫苑は驚きを隠せなかった
「う、浦原隊長!?」
思わず飛び起き、布団を出ようとする紫苑を喜助が抱き寄せた
「待って、もう少しこのままで…」
「え!ちょ…っ」