第4章 恋人はいますか?
「また寝ちゃったんスか」
喜助は微笑み、紫苑の部屋まで歩く
「紫苑サン、つきましたよ」
一度紫苑の部屋の前で声をかけるが反応がない
「完全に寝入ってるっスね…中入っちゃいますよ」
そうして紫苑を背中にのせたまま、部屋の扉を開ける
そのまま器用に布団を敷き、ゆっくりと紫苑を寝かせる
髪が痛いだろう
一つに結んでいた髪紐をほどくと、サラサラと指からこぼれ落ちて、ふわっと微かにいい匂いがした
それだけで喜助はドキっとする
紫苑の横に座ってしばらく彼女を眺めていた
そういえば前にもこんな場面があった
透き通るような白い肌、長いまつげ、艶のある髪…
目を開けた姿を見た時思った
やっぱり綺麗だ
一体何処で…
柄にもなく緊張した
女の人は何人も相手にしてきたのに、こんなに胸が高鳴るのは初めてだった
「紫苑サンの気になる人が、ボクだったらいいのに…」
喜助は紫苑の目にかかっている前髪を、横に流しながら呟いた
「ん…」
トクトクと動きを早めた心臓に蓋をするように、ボクは手を引っ込めた
「紫苑サン、ボク帰りますね。おやすみなさい」
小さな声で声をかけて、膝に力を入れた
「待って…お父…様…」
「え…?」
布団に横になりながら、腕を伸ばしてボクの袖を掴む
お父様…の夢でも見てるんスかね…
「紫苑サン、ボクは…」
「行かないで…」
何度も瞬きする、トロンとした瞳
まるで力の入っていない手
寝ぼけているのは明白だった
「いやいや、ダメっスよ…ボクも一応男っスからね?それにお父様じゃ…」
「どうして…一緒に寝てくれないの?…お父様」
途端に潤う瞳
「1人で寝るのは寂しいの…」
今にもこぼれ落ちそうな涙が、ふるふると際どいところで震えている
「いや…でも……」
袖を掴む手にぎゅっと力がこもった
「お願い…」