第30章 幸せを握りしめてるの
「紫苑に発信器つけようかとかボソボソ呟いとったで」
「そんなんつけんでも霊圧探ったらええやん」
「なんかあったときに自分に連絡が来るようにとかなんとか…研究バカの考えることは分からんわ」
「あいつならやりそうや…」
…─
紫苑の霊圧は……っと
喜助は瞬歩で紫苑の元へ向かう
そこには力なく木に腰かけ、踞る紫苑がいた
「きすけさん……」
ボクに気づいていない様子の紫苑は、力ない声でボクの名前を呼んでいた
「呼びました?」
「きすけさん?」
ゆっくりあげた顔
頬にはかすかに涙が伝った後が残っている
あぁそうか……ここは
「迎えに来てくれたの?」
「あんまり遅いから、心配したっスよ」
「ありがとう……」
本当はこんな時間まで何してって、怒るつもりでいた
心配させてって
でもボクから出た言葉は優しい言葉だった
紫苑がここに留まっている理由が分かったから
いや、動けなかったのかもしれない
ここには思い出が多すぎる…
「帰りましょ」
「うん」
差し出された喜助さんの手を握ったら、嘘みたいに体が軽くなった
真っ暗だった暗闇から連れ出してくれた
この人を、大切にしたいと思った
瞬歩を使ったっていいのに、喜助さんは私に合わせてゆっくりゆっくり歩いてくれた
その間、何を話すわけでもなくただただ傍にいてくれた
それがなんだか嬉しくて、心地よかった
「喜助さん、ありがと…」
聞こえたか分からないくらい小さい声で呟いたソレは、風の音にかき消された
「何もしてないっスよ」
返事がくると思ってなかったからびっくりして喜助さんの顔を見ると、優しく笑っていた
その笑顔を見ると、安心する
「喜助さん、ずっと一緒に居てね」
「モチロンっスよ」
…─
「琴乃っ」
朝一番に琴乃を見つけた私は駆け寄ってその体をぎゅうっと力強く抱き締める
「ど、どうしたの?紫苑?可愛いけど…」
「生きていてくれてありがとう…」
「え、そりゃ生きてるけど?え、なに本当どした?」
琴乃は生きている
それが救いだった
私の唯一の家族